コソヴォ警察が北部のセルビア系行政施設を閉鎖:欧米は異例の強い表現でコソヴォ政府を非難

8月30日、コソヴォ警察は、セルビア人が多数派を占めるコソヴォ北部において、セルビア政府が実質的に運営する行政機関事務所を閉鎖した。

コソヴォ警察は北部4自治体(ミトロヴィツァ、レポサヴィチ、ズビン・ポトク、ズベチャン)において、暫定自治体事務所などセルビア政府が運営する5カ所の施設に対する強制捜査を実施し、施設内の設備や資料を押収した後、これらの事務所を閉鎖したと発表した。報道によれば、一連の作戦にはコソヴォ警察特殊部隊(ROSU)も参加したとされている。コソヴォ警察はプレスリリースにおいて、この作戦はコソヴォ地方自治省の要請に基づいて実施されたものであり、コソヴォ北部における「違法行為の停止と違法な自治体活動の停止」を目的としたものであると説明している。

このコソヴォ政府の動きに対し、欧米諸国は異例の強い表現でこれを非難している。

在コソヴォ米国大使館は30日、次のとおり声明を発表した(強調表示は当サイトによるもの。以下同)。

米国政府は、コソヴォ政府による協調のない行動が継続していることに改めて懸念と失望を表明する。この行動は、コソヴォのセルビア人コミュニティのメンバー及びその他の少数民族コミュニティに直接的な悪影響を及ぼし続けている。

コソヴォ政府の政治当局からの指示により、コソヴォ警察は本日8月30日、北ミトロヴィツァ、ズベチャン、ズビン・ポトク、レポサヴィチにおいて、セルビアが支援する施設に対する作戦を実施した。コソヴォにおけるセルビア系施設に関する問題は、EU主導の対話を通じて対処されるべきものである。このコソヴォ政府の行動は、国際社会と全く協調されていないものであった。

米国と国際社会のパートナーは、コソヴォ政府に対し、国際社会との協調を優先し、EU主導の対話の議題として扱われている問題について一方的な行動を取らないよう、一貫して求めてきた。コソヴォ政府が我々のこうした要請に応じなかったことは、我々のパートナーシップが現実に悪化していることを反映している。我々が以前に指摘したように、コソヴォ政府の非協調的な行動は、コソヴォ国民とKFOR要員をより大きな危険にさらし、地域の緊張を不必要に高め、信頼できる国際パートナーとしてのコソヴォの評判を損ねている

米国政府は、安全と安定を促進するという我々の公約の一環として、長年にわたりコソヴォ警察の設立と専門化を支援してきたことを誇りに思うが、コソヴォ政府が非協調的な行動を実行するためにコソヴォ警察を利用し続けていることは、「国際社会との協議と調整を継続する」というコソヴォの約束と矛盾しているコソヴォ政府の行動は、コソヴォ内務省およびその下部組織と我々との協力の質と性質にも影響を及ぼすだろう

出典:在コソヴォ米国大使館ウェブサイト

また、米国務省のオブライエン(Jim O’brien)次官補は、自身のXアカウントを通じて、「米国政府は、コソヴォ政府による協調性の無い挑発的な行動が継続していることを懸念している。我々はクルティ政権に対し、国際社会との事前の協議と調整を行い、また我々のパートナーシップを損なうような協調性の無い行動を止めるよう求める」と述べた。

一方、在コソヴォEU事務所は30日、次のとおり声明を発表した。

EUは、コソヴォ治安機関と国際パートナーとの連携が引き続き欠如していることに失望している

コソヴォ政府の指示の下、北ミトロヴィツァ、ズベチャン、ズビン・ポトク、レポサヴィチに所在するセルビアが支援する事務所に対して実施されたコソヴォ警察による本日の作戦は、現地の脆弱な治安状況を危険にさらしている。この作戦の実施を監視するために、EU法の支配ミッション(EULEX)が直ちに配備されたが、この作戦は EU および国際パートナーと調整したものではなかった。

EUは、コソヴォが緊張緩和にコミットしていることを改めて強調したい。EUはコソヴォに対し、現地の人々の安全に悪影響を与える可能性のあるいかなる行動も避けるよう繰り返し求めてきた。残念ながら、我々の呼びかけはコソヴォ政府によって無視されてきた

 EUは、コソヴォ警察によるセルビア系事務所に対する現在の作戦が、すでに不安定な状況のさらなるエスカレーションにつながる可能性があることを繰り返し述べたい。

セルビアが支援する事務所については、EUが仲介する対話で取り上げ、解決することが期待されている。

我々は、コソヴォとセルビアがEUが仲介する対話において未解決の問題に取り組み、解決することを期待する。

出典:在コソヴォEU事務所ウェブサイト

このほか、英国、ドイツ、フランス、イタリアなどの駐コソヴォ大使が、コソヴォ警察の作戦に対する懸念や批判を表明している。

1999年のコソヴォ紛争終結後、セルビア(当時のユーゴスラヴィア連邦共和国)の行政機関はコソヴォの大部分からは撤退したが、セルビア人が住民の大多数を占めるコソヴォ北部においては、紛争後もセルビア政府が運営する行政機構が残っており、国連による暫定統治下においても、コソヴォに残るセルビア人住民に対しては、実質的にこれらのセルビア系機関が、教育や保健医療などを含めた必要な行政サービスを提供してきていた。

2008年のコソヴォによる独立宣言後もその状況は大きくは変化していなかったが、2021年に成立した第二次クルティ政権は北部のセルビア人住民に対する締め付けを強めており、セルビア側が発行したナンバープレートや運転免許証の利用停止、コソヴォにおけるセルビア・ディナールの利用停止、セルビア系金融機関及び郵便局の閉鎖といった措置を相次いで実施し、その度に、セルビア人住民及びセルビア政府からの強い反発を招いてきたほか、欧米諸国もコソヴォ当局の一方的な強硬措置を非難する姿勢を示してきていた。

しかし、コソヴォ政府はこうした欧米からの非難にもかかわらず、セルビア人とアルバニア人が対峙するミトロヴィツァにおいて、両民族の居住地区を結ぶ市内中央部の橋を通じた車両通行の再開を主張しており、欧米からの更なる非難を招いてきている。特に、コソヴォの最大の支援国と見なされてきた米国は、駐コソヴォ大使が「米国政府はクルティ政権からの挑戦を受けている」と発言するなど、クルティ政権への批判を強めてきている。

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今回のセルビア系事務所の閉鎖は、クルティ政権による一連の強硬策の一環と位置づけられるが、欧米からの度重なる非難にも関わらず、再度繰り返されたこの措置は、コソヴォと欧米諸国との関係を更に悪化させる可能性がある。

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(アイキャッチ画像出典:Shutterstock)

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