
関係者起訴と抗議活動を受け、クシュナー氏がベオグラードのNATO空爆跡地への投資計画を撤回-ヴチッチ大統領は猛反発
12月15日、トランプ(Donald Trump)米大統領の娘婿であるクシュナー(Jared Kushner)氏が率いる投資会社アフィニティ・パートナーズ(Affinity Partners)は、セルビアの首都ベオグラード中心部で進めていた高級ホテルおよび居住施設「トランプタワー・ベオグラード」の開発計画を撤回すると発表した。
この決定は、同プロジェクトを巡る汚職疑惑の捜査が進展し、現職閣僚らが起訴された直後に行われた。アフィニティ・パートナーズの広報担当者は米ウォール・ストリート・ジャーナル(Wall Street Journal)の取材に対し、「重要なプロジェクトは分断ではなく団結をもたらすべきであり、セルビアの人々とベオグラード市への敬意から、現時点では申請を取り下げる」と述べた。
クシュナー氏の撤回発表と同日の12月15日、セルビア組織犯罪特別検察は、ベオグラード中心部にある旧ユーゴスラビア軍参謀本部(Generalštab)ビルの文化遺産保護指定を解除した際、職権乱用および公文書偽造を行った疑いで、セラコヴィッチ(Nikola Selaković)文化大臣のほか官僚3名を起訴した。起訴された他の3名は、イェラチャ(Slavica Jelača)文化省秘書官、ヴァシッチ(Goran Vasić)セルビア共和国文化財保護研究所所長代行、およびイヴァノヴィッチ(Aleksandar Ivanović)ベオグラード市文化財保護研究所所長代行である。検察によれば、被告らは同ビルの保護指定解除を正当化するために、権限のない者が作成した文書や偽造された文書を用いた疑いがあるとされている。
総額約5億ドルの再開発計画の対象となった旧参謀本部ビルは、1999年の北大西洋条約機構(NATO)による空爆で破壊された後、長らく廃墟のまま保存されており、セルビアにとっては国家的な悲劇と抵抗を象徴する重要な文化遺産であった。ヴチッチ(Aleksandar Vučić)大統領が率いる現政権は、この跡地にヨーロッパ初の「トランプ・ブランド」のホテルや高級マンションを建設するため、文化遺産としての指定解除手続きを進めていた。セルビア国内メディアの報道によって明らかとなった2024年に結ばれた合意内容によれば、クシュナー氏の企業が77.5%の株式を保有し、セルビア国家は22.5%を保持することになっていたが、セルビア側は土地を99年間無償で貸与し、さらには投資家が満足する形で既存の建物の解体や保護指定解除を行う義務を負っていたとされている。
この計画に対しては、学生を中心とした市民団体や野党から、歴史の抹消や汚職、米国への阿諛追従であるとの激しい反発が起きていた。特に11月には、政府が同プロジェクトを迅速に進めるための特別法(lex specialis)を議会で通過させたことで、抗議活動はさらに激化した。野党「セルビア人民運動」のアレクシッチ(Miroslav Aleksić)議員は議会で、政府がトランプ氏側を欺いたと批判し、「全世界が真実を見抜いた」と述べ、政府の退陣を要求した。
一方、12月16日に記者会見を行ったヴチッチ大統領は、クシュナー氏の計画撤回によりセルビアは少なくとも7億5,000万ユーロの投資を失ったと述べ、強い怒りを表明した。ヴチッチ大統領は、今回の事態を「魔女狩り」であると断じ、抗議活動家や検察がセルビアの経済発展を阻害したと主張した。また、大統領自らが、投資を妨害し国家に損害を与えたとされる警察や検察の担当者、および抗議活動に関わった個人全員を刑事告訴する方針を明らかにした。ヴチッチ大統領は「我々セルビア人は機会を逃す名人だ」と嘆き、ベオグラード中心部には今後も誰も手を付けたがらない廃墟が残り続けることになると批判した。
この投資計画の崩壊は、セルビアにおける外資導入プロセスの不透明さや、法の支配を巡る深刻な政治的対立を浮き彫りにした。マーリ(Siniša Mali)財務大臣も12月17日に、今回の撤回が他の投資家に対しても悪いシグナルになると懸念を示しており、今後は、ヴチッチ政権が司法当局や反対派に対してどのような手段を講じるかが一つの焦点となる。
(アイキャッチ画像はトランプタワー・ベオグラード想像図、出典:trumpbelgrade.com)


































































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