セルビア・コソボ首脳会談開催:「関係正常化基本合意と履行付属書について合意成立」と発表されるも署名はなされず
3月18日、北マケドニアのオフリドにおいて、ブチッチ(Aleksandar Vučić)セルビア大統領とクルティ(Albin Kurti)コソボ首相が会談を行った。会談には仲介役としてボレル(Josep Borrel)EU外交・安全保障政策上級代表(EUの外務大臣に相当)とライチャーク(Miroslav Lajčák)ベオグラード・プリシュティナ間対話担当EU特別代表が出席した。午前10時にはじまった会談は12時間以上にわたって続けられ、深夜になってようやく記者発表が行われた。
両首脳は、2月27日にブリュッセルで行われた前回首脳会談において、EUが提案した「コソボとセルビアの関係正常化への道程に関する合意」に原則合意したと発表されており、今回の首脳会談では、この合意の履行に関する付属書の内容が議題だとされていた。
仲介役を務めたボレルEU上級代表は、会談後の18日深夜に次のとおり公式声明を発表した。
EUは、両当事者が本日、『コソボとセルビアの関係正常化への道程に関する合意』の履行について合意したことを歓迎する。この合意は、両当事者各々の欧州への道のり(European paths)における不可分かつ拘束力を有する一部となることが予定されている。
両当事者は本日、過去の対話を通じて成立した合意に由来する義務の完全な履行を含む、合意の履行に関する付属書について合意しており、EUはこれを大きな進展だと考えている。
平和、和解、経済発展は西バルカン地域のEU加盟へ向け進歩を加速させるための前提条件である。
出典:EEASウェブサイト(https://www.eeas.europa.eu/eeas/belgrade-pristina-dialogue-statement-high-representative-josep-borrell-after-high-level_en)
ブチッチ大統領は会談後、セルビアメディアに対し、「我々は本日、一定の内容について合意した。その内容は我々のEU加盟プロセスの一部となるだろう。しかし自分は本日、何の文書にも署名しなかった。自分はセルビアにとってのレッドラインが何であるかを明確に示した。セルビアにとって重要なことは、過去の合意に従った形でのコソボにおけるセルビア系自治体共同体の設立が優先事項として定められたことである。数々の立場の相違はあったが、本日は適切な議論がなされたと考えている。」と述べた。
一方でクルティ首相は、コソボメディアに対し「コソボとセルビアはEU案の履行について公式に同意した。これにはセルビアがコソボの独立を事実上承認したことを意味する。自分は本日、合意文書に正式に署名することを望んだが、ブチッチにはその用意が無かった。」と述べた。また、セルビア系自治体連合の設立について記者から問われたクルティ首相は、「この合意では『セルビア人の自己管理』という言及があるだけであり、セルビア系自治体連合という名称は使われていない。」と指摘した。
一方では合意成立が発表され、他方で署名はなされていないとされたことから、実際に何が成立したのかについて一時的に情報が錯綜したが、18日深夜に記者会見を行ったボレルEU上級代表は、次のように述べて状況を説明した(強調表示は当サイトによるもの)。
コソボとセルビアは、2月27日時点でEU案自体には合意しており、本日の議題は、この合意について、いつ、誰が、何を、どのように履行するかであった。そしてコソボとセルビアはこの履行に関する付属書に合意した。
両者は、この合意の全ての条文について、誠実にその義務を果たすことを誓約した。
合意7条(当サイト注:コソボ内セルビア人の自治に関する条文)に関し、コソボ側は、コソボのセルビア人住民の適切な水準の自己管理のための特定の取極と保証を確立するための交渉を、EUが仲介する対話において直ちに開始することに合意した。
両当事者は、対話の中で合意されたとおりに、行方不明者の問題に関する宣言文を承認することに合意した。
EUは、当初はより野心的で詳細な内容の付属書案を提案していた。しかし、残念ながら両当事者はこの詳細な提案に合意することはできなかった。コソボ側は、この案の内容についての柔軟性が欠けていた。セルビア側は、この案を履行する用意があるとしていながらも、当初よりこの案に署名はしないという方針を掲げていた。
この状況を打開するため、我々は署名の形式と付属書案の内容の両面について創造性を発揮したが、両当事者が相互に受け入れ可能な解決策に至ることはなかった。
それゆえ、この合意及び付属書は、私(ボレル上級代表)の公式声明を通じて合意されたものと理解されることになる。
2月27日に合意されたEU案及び本日合意された付属書は、両当事者各々のEU加盟プロセスにおける不可分の一部となる。私はこれから直ちに、この合意と付属書の内容を、セルビアのEU加盟交渉枠組みのチャプター35(当サイト注:EU加盟交渉は35のチャプターと呼ばれる政策分野別に実施されており、チャプター35は「その他」となっているが、セルビアのEU加盟交渉においては、このチャプターでコソボ問題が扱われている)及びコソボ・セルビア関係正常化に関する関するEU特別グループの議題に組み込むための作業を開始する。
この措置によって、今回の合意はセルビア、コソボ各々のEU加盟プロセスの不可分の一部となり、両当事者はこの合意に拘束されることになる。そしてEUは両当事者に対し、合意に基づく義務を果たすよう強制力をもって要求していく。従って、義務を履行しない場合には、相応の結果がもたらされることになる。
この合意は、両当事者に大きな利益をもたらすと同時に、西バルカン地域全体の安定と繁栄にとって非常に重要な意味を持つ。セルビア・コソボ間の対話は、現在のより広範な地政学的文脈において理解されるべきである。
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