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コソヴォがトルコ製自爆ドローンを受領-セルビアは「安保理決議違反」と激しく反発

10月8日、コソヴォはトルコから購入した自爆ドローン「スカイダガー15」(Skydagger 15)のコンテナがプリシュティナ(Priština)のアデム・ヤシャリ(Adem Jashari)空港に到着したと発表した。これに対しセルビアは、トルコによる武器供与は国連安全保障理事会決議1244号に違反するとして激しく反発しており、地域の緊張が再び高まっている。

コソヴォのクルティ(Albin Kurti)暫定首相は、マチェドンツィ(Ejup Maqedonci)国防大臣代行と共に空港でドローンの到着を出迎え、「我が国の軍、すなわちコソヴォ治安部隊(Kosovo Security Force, KSF)の打撃能力を強化・増強するものだ」と述べた。

製造元であるSkydagger社ウェブサイトの情報によれば、今回納入された「Skydagger RTF 15」のカタログスペックは、最大飛行時間35分、最大速度時速130km、最大ペイロード5kgとされている。

クルティ暫定首相のFacebookへの投稿によれば、このドローンは2024年12月にトルコのバイカル(Baykar)社との間で購入契約したもので、当初2026年1月に予定されていた納期を3ヶ月前倒しで受領したという。クルティ暫定首相はさらに、「現代戦の戦術と新たな技術開発に対応できる部隊を構築する目的で、移動・固定目標を攻撃する爆発物を搭載した無人戦闘航空機を調達した」と強調し、すでにKSF隊員数十名が運用訓練を完了していることを明らかにしたうえで、これらのドローンは、KSFが既に保有するトルコ製「バイラクタルTB2」や米国製「プーマ」といった無人航空機システムを補完するものになると述べた。

この動きに対し、セルビアは即座に強い非難を表明した。ヴチッチ(Aleksandar Vučić)大統領は、ソーシャルメディア上で「トルコの行動と、国連憲章および国連安保理決議1244号への残忍な違反に愕然としている」と投稿。「トルコが西バルカンの安定を望んでおらず、再びオスマン帝国の再興を夢見ていることは今や完全に明らかだ。セルビアは小国だが、そのメッセージはよく理解した」と述べ、トルコを厳しく批判した。

また、セルビア政府のペトコヴィッチ(Petar Petković)コソヴォ・メトヒヤ事務所長官も、コソヴォにおける唯一の合法的な武装組織はNATO主導のコソヴォ国際安全保障部隊(Kosovo Force, KFOR)であると定めた安保理決議1244号にトルコは直接違反していると指摘し、「トルコは地域の平和と安定を損なうクルティ暫定首相の共犯者だ」と非難した。

さらに、セルビア軍のモイシロヴィッチ(Milan Mojsilović)参謀総長は、KFOR司令官であるトルコ軍のウルタシュ(Ozkan Ulutaş)少将と緊急電話会談を行った。セルビア軍プレスリリースによると、モイシロヴィッチ参謀総長は「いわゆる『KSF』への武装継続」に強く抗議し、こうした動きは西バルカン地域全体の安全保障を脅かす「非常に悪いシグナル」であるとの懸念を伝達した。その上で、KFORに対し、全ての住民、特にセルビア系住民の安全な環境と移動の自由を確保するため、KFORが国連より授権されたマンデートについて一貫性を維持し、公平に遂行するよう求めた。今回のドローン納入は、KFOR司令官はイタリア軍将官からトルコ軍将官に交代した直後というタイミングで行われた。

1999年のコソヴォ紛争終結時に採択され、現在も法的に有効である安保理決議1244号は、その主文9(b)において、KFORの責任として「コソヴォ解放軍及びその他のコソヴォ・アルバニア人武装集団の非軍事化」を定めている。セルビア側はこの規定を根拠に、KSFの創設及びその正規軍化は安保理決議違反であると主張している。

コソヴォはNATOや欧米主要国の支援の下で2009年に軽武装のコソヴォ治安部隊(KSF)を創設したが、その後2018年にKSFをコソヴォ軍(KAF)に転換するための法改正を行い、正規軍としてのKAF整備を進めている。コソヴォの正規軍創設の動きに対し、NATOをはじめ、EU、国連は反対の意向を表明しているが、米国、英国、独、トルコ等の国々は二国間協力の枠組においてKAF創設を支援している。KSFの現在の総兵力は15,000名(予備役5,000名含む)となっている。

しかし2023年以降は、欧米の反対にも関わらず、セルビア人住民が多数派を占めるコソヴォ北部地域に対して、クルティ政権がセルビア系の金融機関や行政組織を閉鎖するなどの強硬措置を繰り返したことを受け、コソヴォと欧米との関係が急速に悪化し、米国が多国間軍事演習へのKSF参加をキャンセルするなど、KAMに対する欧米からの支援にも変化が見られている。EUは2023年より要人往来の停止や一部援助の停止といった「規制措置」をコソヴォに対して適用しており、米国はコソヴォとの戦略対話の無期限停止を発表している。

一方、ともに長期政権を維持するヴチッチ・セルビア政権とエルドアン(Recep Tayyip Erdoğan)・トルコ政権の下で、セルビアとトルコは急速に関係を強化し、2022年のエルドアン大統領のセルビア訪問時には「両国の有効関係は過去最良の黄金期を迎えている」との発言がなされていた。また、2024年10月のエルドアン大統領の訪問時には、両大統領が、両国による軍事用ドローンの共同開発を示唆する発言も見られた。

しかし、2024年11月にコソヴォ政府が国内での断薬生産と軍事用ドローン開発の方針を表明し、翌月にコソヴォ政府とトルコ企業がコソヴォへの弾薬製造工場建設合意を結ぶと、セルビアはこれに激しく反発し、トルコの姿勢を非難していた。なお、コソヴォは2023年、トルコ製の大型UAVであるバイラクタルTB2を調達している

トルコがコソヴォとの軍事協力を進める中で、2023年のイスラエル国防軍によるガザ地区への侵攻以降、セルビアはイスラエルとの軍事協力を進展させており、2025年に入ると、イスラエルのエルビット(Elbit System)社との間で総額約20億ドルの装備調達契約を交わし、一方でセルビアからイスラエルに対する兵器輸出額は、イスラエルのガザ侵攻以降に約30倍に急増したとも報じられていた。

実際に、今年9月に行われたセルビア史上最大の軍事パレードにおいては、イスラエルより調達されたとみられる大型UAV「HERMES 900」や多連装ロケット砲システム「PULS」等が展示されている。

(アイキャッチ画像出典:Shutterstock)

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