
ノヴィ・サド駅崩落事故1年で大規模追悼集会-議会前では与野党支持者が衝突
2025年11月1日、セルビア北部の主要都市ノヴィ・サド(Novi Sad)で、2024年11月1日に発生し16人が死亡した駅舎のコンクリート製天蓋崩落事故から1年を迎える大規模な追悼集会と反政府デモが開催された。政府の怠慢と汚職が事故原因であるとして学生らが主導する抗議運動は、この1年でヴチッチ(Aleksandar Vučić)政権にとって深刻な挑戦となっている。
ノヴィ・サドでの追悼集会
主催者発表を計測するNGO「公開集会アーカイブ(Archive of Public Gatherings)」の推計で11万人以上、警察発表では約39,000人が参加した集会は、事故発生時刻の午前11時52分、16人の犠牲者に捧げる16分間の黙祷で始まった。参加者は、犠牲者一人ひとりを象徴する市内16か所から駅に向かって行進し、事故以来閉鎖されている駅前広場は、犠牲者の名前が書かれた赤いハート型のカードや風船、無数の花で埋め尽くされた。
参加者には、セルビア全土から数日かけて徒歩(遠くは300km離れたノヴィ・パザルから)、自転車、トラクターなどでノヴィ・サドに到着した学生や市民も含まれ、前日夜には数千人の地元住民から歓声で迎えられた。地元住民は彼らに宿泊場所を提供し、路上に即席のスタンドを設けて食料や飲料を配布するなど、抗議運動への強い連帯を示した。夜には、学生たちがドナウ川沿いのペトロヴァラディン(Petrovaradin)要塞の壁に「正義が果たされるまで、明日も毎日も会おう」と書かれた巨大な横断幕を掲げ、川のボートからは16個の白い紙提灯が空に放たれた。
集会では、抗議の最前線に立ってきた人々から強いメッセージが発せられた。ノヴィ・サド大学の学生ナジャ・ショライア(Nadja Solaja)氏は、「これは悲劇でも偶然でも間違いでもない。これは犯罪であり殺人だ。犠牲者の家族は誰が愛する人を殺したのか知る権利がある」と訴えた。また、事故で27歳の息子ステファンさんを亡くしたディヤナ・フルカ(Dijana Hrka)氏は、学生たちに「私を生かし続けてくれている」と感謝を述べ、早期の議会選挙を要求。「誰が私の子供を殺したのか、誰が16人を殺したのか知らなければならない。誰かが責任を取らなければならない」と語り、翌2日から首都ベオグラードの国民議会議事堂前でハンガーストライキを開始すると宣言した。
一方、ヴチッチ大統領は同日、ベオグラードの聖サヴァ(St Sava)教会で開かれた追悼礼拝に出席した。大統領は集会の前日(10月31日)に国民向けのテレビ演説を行い、過去に抗議参加者を「外国から金で雇われている」などと非難したことについて「後悔している発言もある」と謝罪し、対話を呼びかけていたが、学生側はこれを一蹴していた。
また、政府はこの日を追悼の日と宣言したが、抗議者らは、政府がデモ参加者のノヴィ・サドへの移動を妨害するために前日に国内の全鉄道輸送をキャンセルしたと非難している。
議会前での与野党支持者の衝突
翌11月2日、予告通り国民議会議事堂前でハンガーストライキを開始しようとしたフルカ氏は、警察によって阻止された。フルカ氏は、1. 事故に関する全ての容疑者の尋問、拘留、裁判、2. 拘束されている全ての学生デモ参加者の釈放、3. 早期選挙の実施、の3つの要求を掲げている。フルカ氏が支持者らと共に議事堂近くにテントを設置すると、議事堂向かいのピオニルスキ(Pionirski)公園に常駐している与党・セルビア進歩党(SNS)の支持者キャンプ(通称「チャツィランド(Ćaciland)」)との間で緊張が高まった。
夜になると、SNS支持者側からフルカ氏の支持者や報道陣がいる場所に向けて、岩、瓶、発煙筒(花火)などが投げ込まれ、大音量の音楽が流される事態に発展した。N1TVなどの現地メディアや目撃者は、「チャツィランド」側から攻撃が仕掛けられたと報じたが、現場にいた機動隊は、SNS支持者側が投擲物を投げ始めた当初は反応しなかったとされる。
ヴチッチ大統領は同夜、PinkTVの番組に電話出演し、抗議者側が「人を燃やす意図で」「外国の圧力に対する自由と抵抗の象徴である『チャツィランド』を攻撃した」と非難した。
セルビア内務省は11月3日、この衝突に関連し、「公共空間における未登録の集会開催」によって治安を乱したとして37人を逮捕したと発表した。抗議者側がSNS支持者を攻撃し、テント1張りが燃え、警官1人が発煙筒で負傷したと主張したが、SNS支持者側による投擲については言及しなかった。逮捕者には元バスケットボール選手のヴラディミル・シュティマツ(Vladimir Stimac)氏も含まれており、検察は同氏が憲法秩序の暴力的変更を呼びかけたと主張しているが、弁護士は「『チャツィランド』は国家ではなく、制度の乱用だ」と批判している。フルカ氏は3日朝、要求が満たされるまでハンガーストライキを続ける意向を改めて表明した。
「チャツィランド」を巡っては、10月22日に発砲・放火事件が発生しており、ヴチッチ大統領はこの事件を「テロ行為」だと批判していた。
事故の責任を巡る捜査の状況
この崩落事故を巡っては、複数の捜査が進められている。ノヴィ・サド検察庁は2024年12月、ゴラン・ヴェシッチ(Goran Vesic)元建設・運輸・インフラ相を含む公務員13人を公共の安全に対する重大な犯罪容疑で起訴したが、裁判所はまだこれを受理していない。
また、ベオグラード組織犯罪検察庁は2025年8月、ヴェシッチ氏の前任者トミスラヴ・モミロヴィッチ(Tomislav Momirovic)氏らを汚職容疑で拘束しており、この捜査は進行中である。
さらに、欧州検察庁(EPPO)も2025年3月、同工事におけるEU資金の不正使用の可能性について独自の捜査を開始しているが、事故による16人の死亡に直接関連して裁判にかけられた政府高官はまだいない。
(アイキャッチ画像出典:Shutterstock)








































































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