
上川外相がセルビアを公式訪問:投資協定交渉開始に合意
7月18日、上川陽子外相がセルビアを公式訪問し、ブチェヴィッチ首相等と会談を行った。日本の外相のセルビア訪問は、2019年8月の河野太郎外相(当時)による訪問以来、約5年ぶりとなった。
1.ブチェヴィッチ首相への表敬訪問
外務省発表によれば、ブチェヴィッチ(Miloš Vučević)首相への表敬訪問を行った上川外相は、5月に首相に就任したブチェヴィッチへの祝意を述べた上で、セルビアへ進出する日系企業に対するセルビア政府からの支援を要請した。また上川外相は、西バルカン地域の平和と安定を実現するためには地域協力の推進と欧州統合重要であるとの認識を示した上で、日本が推進する「西バルカン協力イニシアティブ」の下で実施される様々な支援が西バルカン地域全体の発展に繋がることを期待する旨述べた。このほか、上川外相とブチェヴィッチ首相は、2025年大阪・関西万博を含め、経済関係を中心とした今後の日本とセルビアの二国間関係の発展に向けて努力することで一致した。また、コソヴォ情勢に関して、上川外相からは、日本はEUが仲介する「ベオグラード・プリシュティナ間対話」を通じた問題解決を支持しており、この対話の下での義務を誠実に履行していくことが重要である旨を伝えた。
一方、セルビア政府発表によれば、ブチェヴィッチ首相はセルビアと日本経済関係は近年ますます緊密化していると指摘した上で、特にセルビアに進出した日系企業が、先端技術や人工知能といった分野で地域の先頭を走るセルビアのビジネス環境から大きな利益を得ていることを嬉しく思う旨述べた。ブチェヴィッチ首相は、特にIT分野において更に多くの日本からの投資を迎えたいとの考えを伝えたほか、環境保護の分野においてセルビアと日本は大きな協力の可能性を有していると述べた。
ブチェヴィッチ首相は、セルビアと日本の双方が、セルビア西部のビストリツァにおける揚水発電所建設事業やその他のエネルギー分野での事業、及び環境保護分野での事業における協力に関心を有していることに満足している旨述べた。
ブチェヴィッ首相は、セルビアの目標は地域における平和と安定の維持にあると指摘したうえで、最近のコソヴォ情勢に関する懸念を表明し、コソヴォにおけるセルビア人住民に対するコソヴォ当局のテロ行為を阻止し、対話を継続するため、コソヴォ側に対し圧力を加えることが必要であると強調した。
2.日・セルビア外相会談及びワーキングランチ
上川外相は、セルビアのジューリッチ(Marko Đurić)外相との間で、二国間外相会談及びワーキングランチを行った。
外務省発表によれば、両大臣は、二国間経済関係を更に強化すべく、新たに投資協定の交渉を開始することに合意した。上川大臣からはジューリッチ外相に対し、セルビアに進出している日系企業への支援を要請し、ジューリッチ外相はこれに応じる考えを示した。
上川外相はまた、西バルカン諸国が平和と安定を享受するためには域内諸国間の協力の推進と欧州統合が重要であり、そうした問題意識の下で、日本は「西バルカン協力イニシアティブ」に基づき西バルカン諸国の社会経済改革、和解と融和を支援している旨述べた。これに対しジューリッチ外相は、円借款によって整備された「ニコラ・テスラ火力発電所排煙脱硫装置」をはじめとした日本からの支援についての謝意が述べられた。
コソヴォ問題について、上川外相は、セルビア政府コソヴォ事務所長間としてジューリッチ外相がコソヴォとの関係正常化に尽力してきたことに言及しつつ、日本が「ベオグラード・プリシュティナ間対話」を通じた問題解決を支持しており、全ての関係者がそれぞれの義務を誠実に履行することが重要である旨述べた。
一方、セルビア外務省発表によれば、ジューリッチ外相は、日系企業のセルビア進出がセルビアと日本の経済関係を大きく強化し、またセルビアの経済発展に貢献してきたことを指摘した。またジューリッチ外相は、日本の「西バルカン協力イニシアティブ」に基づく様々な支援への評価と感謝を述べたうえで、セルビアは、このイニシアティブをより可視化されたものへと発展させ、具体的なプロジェクトの実施枠組として強化することに関心を有していると表明した。
ジューリッチ外相は、コソヴォ問題について、未解決の問題を解決する唯一の道は対話であり、セルビア政府は関係正常化に向けた対話に継続的にコミットしていると述べた。また、「安定の維持は我々にとって最も重要な優先事項であり、セルビアや日本の企業が成長を実現することができるよう、セルビアは今後も政治的に安定した環境の創出に尽力していく」と述べたうえで、セルビアは今後も地域の平和と安定の保証者としての役割を果たしていくと表明した。
3.マツラ女性のエンパワーメント等担当大臣との会談
上川外相は、マツラ(Tatjana Macura)無任所大臣(ジェンダー平等、女性に対する暴力防止及び女性のエンパワーメント担当)と会談し、セルビアに女性の政治参画、ジェンダー平等、女性のエンパワーメント等に関して意見交換を行った。
外務省発表によれば、上川外相は、日本が女性・平和・安全保障(WPS)を主要外交政策の一つとして推進している旨のべたうえで、紛争後の融和と発展に向けて各国が取り組む西バルカンおいては、WPSの視点が重要であると指摘した。これに対しマツラ大臣は、セルビアにおけるWPSの取り組みや難民支援における女性の視点の重要性について言及があった。
4.上川外相による「ポリティカ」紙への寄稿
上川外相は、18日付のセルビア主要日刊紙「ポリティカ」に文章を寄稿した。「セルビアは西バルカン地域の安定の鍵を握る」と題された寄稿文の中で、上川外相は、2018年の故安倍晋三首相のセルビア訪問時に打ち出された「西バルカン協力イニシアティブ」を契機に、日本とセルビアの間ではハイレベルの要人往来が活発化するとともに、日系企業の進出が促進されたことで経済関係の強化が進み、1882年の明治天皇とオブレノヴィッチ・セルビア国王との親書交換から始まった日本とセルビアの二国間関係は、今や新たな段階に入ったとの認識を示した。
上川外相は、2022年12月にTOYO TIRES、2023年5月にニデック、今年3月にJFE商事が相次いでセルビアに工場を開設したことを挙げ、自動車関連分野における日系企業のセルビア進出が加速している点を指摘した。上川外相は、「日本からの投資はEUとの経済統合、民間セクターの更なる改革の推進とともに、改革を支える人材を育成することにつながる」と指摘し、日本政府として、セルビア政府と協力しつつ、日系企業による更なる投資を通じてセルビアのEU加盟プロセスを支援していくとの考えを示した。
上川外相はまた、日本のこれまでのセルビアに対する支援について述べたうえで、今年4月に完工したセルビアに対する初の円借款案件である「ニコラ・テスラ火力発電所排煙脱硫装置建設計画」に言及しつつ、日本は今後もセルビアの脱炭素化に向けた努力を支援するとの考えを示した。
上川外相は、先日スイスで行われた世界平和サミットにおいてセルビアが共同声明に加わったことを含め、ウクライナ支援における国際的な連帯へのセルビアの参加を評価すると述べた。
(アイキャッチ画像出典:セルビア政府Webサイト)
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