【報道】EU加盟国はセルビアのクラスター3交渉開始に合意できず:ハンガリー議長国は合意に向けた協議継続の意向

12月5日付のセルビア国内報道によれば、EU加盟国は、セルビアのEU加盟交渉に関して4日に開催された大使級会合において、現EU議長国ハンガリーが提案したクラスター3(競争力及び包括的成長)の交渉開始案での合意に至らなかった。ハンガリーは合意形成に向けた協議を継続する意向を示している模様。

セルビア公共放送RTSが外交筋の話として報じたところによれば、セルビアのEU加盟交渉を進めようとするハンガリーの提案に対しては、スウェーデン、フィンランド、エストニア、ラトビア、リトアニア、オランダ、クロアチアの7カ国が反対している(一部報道ではブルガリアも反対したとされている)。これらの国々は、選挙不正疑惑や報道の自由の抑圧といったセルビアにおける民主主義と法の支配に対する懸念、コソヴォとの関係正常化交渉の停滞といった点に加え、セルビアの外交政策とEU共通外交政策との齟齬を指摘しており、特にEUによる対ロシア経済制裁にセルビアが加わっていない点を問題視している。

一方、ハンガリー等のセルビアのクラスター3交渉開始に賛同する国は、欧州委員会による技術的評価を受け入れるべきだと主張している。欧州委員会は、2022年時点でセルビアはクラスター3交渉開始に必要な基準を満たしていると結論づけており、セルビアに関する今年の加盟進捗報告書においても同様の評価を再確認している。

ハンガリーをはじめとした一部の国は、セルビアのクラスター3交渉開始について合意できない場合には、他の加盟候補国のEU加盟交渉進展についても同意しないとの意向を示しているとも報じられている。

参考記事

またRTSがセルビア外交筋の話として伝えたところによれば、セルビア政府はEU加盟国に対し、クラスター3交渉開始への同意を引き出すため、セルビア側が今後早急に実施する措置のリストを提示したとされている。このリストの中には、放送メディア規制庁(REM)理事会選出手続の開始、OSCE民主制度・人権事務所の勧告に従った有権者名簿の監査、EU共通査証政策に則った第三国国民への査証措置の導入、ブルガリアとの完全なガス・パイプライン接続といった措置が含まれている模様。

同報道によれば、ハンガリーは12月11日に再度この問題を協議するための大使級EU加盟国会合を開催する意向とみられる。一方、今年中に新たなクラスター交渉を開始するためには、セルビア・EU政府間会合を12月16日から20日の間に開催する必要があり、次回の大使級会合でEU加盟国が合意に至らなければ、交渉開始は現実的に不可能になると見られている。

11月下旬の欧州報道によれば、ハンガリーの提案に対して、ドイツも反対の姿勢を示していたが、今般のRTS報道に基づけば、ドイツは賛成する方針に転換した模様。

4日、セルビアのヴチッチ(Aleksanda Vucic)大統領はRTSの取材に対し、「ドイツが賛成に回ってくれたことは非常に肯定的な点である。交渉開始に至ることが出来ればEUに感謝するし、仮に至らなかったとしてもやはり感謝する。いずれにしろ、セルビアは来年の欧州で最も経済成長ペースの速い国の一つになるだろう」と述べた。

駐日EU代表部の説明によれば、EUへの新規加盟に際して、新規加盟国側はEUが設定している3つの基準(政治的基準、経済的基準、法的基準)を満たす必要があるが、西バルカン諸国のEU加盟交渉においては、「チャプター」と呼ばれる35の個別政策分野ごとに交渉が行われており、セルビアは2014年より加盟交渉を開始している。

しかし、欧州委員会は2020年にこの交渉方式を改訂しており、「改訂拡大方式(revised enlargement methodorogy)」と呼ばれる現在の交渉方式においては、複数のチャプターをひとまとめにした「クラスター」毎に交渉の開始と妥結を図ることになっている。クラスター3にはチャプター10(DX・メディア)、16(税制)、17(経済・通貨政策)、19(社会政策・雇用)20(企業・産業政策)、25(科学・研究)、26(教育・文化)、29(関税同盟)が含まれており、このうちセルビアはチャプター17、20、25、26,29について既に交渉を開始しており、チャプター25及び26については暫定的に交渉を完了している。従って、今回クラスター3の交渉が開始された場合、セルビアはチャプター10、16、19について新たに交渉開始することになる。

(アイキャッチ画像出典:Shutterstock)

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