欧州議会がセルビアにおける社会の分断と弾圧を非難する決議を採択
10月22日、EUの議会にあたる欧州議会（European Parliament）は、「ノヴィ・サドの悲劇から1年、セルビアにおける分断と弾圧の強化」に関する決議を採択した 。この決議は、2024年11月1日にノヴィ・サド（Novi Sad）の鉄道駅で発生し16名が死亡した天蓋崩落事故と 、その後のセルビア国内における政治的分断と抗議活動参加者への弾圧の強化に対応するものとなっている。
「ノヴィ・サドの悲劇から1年」決議の概要
決議はまず、16名の犠牲者を追悼するとともに 、事故から1年が経過しても捜査が進展していないことを指摘している。欧州議会は、法の支配に基づき責任者を裁くため、「完全かつ透明性の高い法的手続き」を改めて要求し、構造的欠陥に関する独立した技術的検証や、汚職または過失の可能性についての完全な評価を求めた。この駅の改修は、ベオグラード-ブダペスト間高速鉄道プロジェクトの一環であり、EUの公共調達の枠外にあるセルビア-中国間の政府間協定に基づき、中国企業2社によって実施された。欧州検察庁（European Public Prosecutor’s Office）は2025年3月、この駅の再建に割り当てられたEU資金の不正使用の可能性について調査を開始している。
この天蓋崩落事故は、学生が主導する空前の全国的抗議デモを引き起こした。デモ参加者は、正義の追求、組織的説明責任、メディアの自由、そして組織的汚職の終焉などを要求している。欧州議会は、説明責任と民主的改革を求めるセルビアの学生と市民の平和的な抗議の権利を支持し、人権と思想の自由を擁護するための献身的な活動に対して欧州議会が与えるサハロフ賞（Sakhorov Prize）の2025年の最終候補にセルビアの学生が選ばれたことに言及した。
一方で決議は、平和的な抗議参加者、ジャーナリスト、野党関係者に対する「国家の影響を受けた暴力、脅迫、無差別な逮捕の波」を「最も強い言葉で非難」している。特に、長距離音響装置（音響兵器）や催涙ガスが広範に使用されたことに懸念を表明した。欧州議会は、セルビアの指導部が「弾圧をエスカレートさせ、暴力を常態化させ、民主的制度を弱体化させた政治的責任」を負うと指摘 、恣意的な逮捕、拷問、拘束者への性的暴力といった深刻な人権侵害の疑惑について、「緊急かつ公平で透明性の高い調査」を要求したた。
また決議は、ノヴィ・サドの天蓋崩落を含む鉄道プロジェクトに関連する職権乱用の容疑で、2025年8月にモミロヴィッチ（Tomislav Momirović）元大臣とヴェシッチ（Goran Vesić）元大臣が逮捕（その後釈放）されたことに言及している。さらに、与党メンバーによる大統領府前のピオニルスキ公園（Pionirski park）での「不法な野営」の組織 、抗議参加学生への暴力で有罪判決を受けた人物に対する「恣意的な大統領恩赦」、そしてヴチッチ（Aleksandar Vučić）大統領を含むセルビア高官による欧州議会議員への口頭攻撃を非難した。
決議は、抗議デモを西側が支援する「カラー革命」だとするロシア連邦による「あからさまな干渉と偽情報」を非難し 、ヴチッチ大統領自身も抗議デモを外国の諜報機関が組織した「カラー革命」だと位置づけてきたと指摘した。
欧州議会は、セルビアにおける深刻な法律違反および人権侵害の責任者に対し、「対象を絞った個人的な制裁」を課すためのイニシアチブを欧州委員会に求め、民主主義の状況を現地で評価するため、欧州議会が参加する「アドホック事実調査団」の迅速な派遣を支持した。
最後に、決議はセルビアのEU加盟交渉について、法の支配、汚職対策、メディアの自由といった基本的分野、特に「EUの共通外交・安全保障政策（CFSP）への完全な同調、および対ロシア制裁」において、「測定可能で持続可能な進展」に基づいてのみ前進すべきであると改めて強調した。
ヴチッチ大統領は「嘘が含まれた決議」と批判
この決議採択に対し、同日の10月22日、ヴチッチ大統領は記者会見で、欧州議会の議論にはセルビアに関する「一連の嘘」が含まれていると述べ、欧州議会議員の情報源の信頼性に疑問を呈した。特に、決議が懸念を表明した「音響兵器」の使用について、「実際にはそこに存在しなかった音響兵器の使用を非難した。それが音響兵器であったと証明すれば、私はもはやセルビアの大統領ではない」と述べ、その使用を強く否定した。また、この決議採択と同日に議会近くの与党支持者のテントで男性が負傷した銃撃事件について、これは「テロ攻撃」であるとの自身の政治的評価を示した。
（アイキャッチ画像出典：Shutterstock）
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