モンテネグロの国勢調査が始まる

12月3日、モンテネグロの国勢調査が開始された。12月18日までの15日間にわたって実施される。モンテネグロで国勢調査が実施されるのは独立後2回目であり、前回は2011年に実施された。

モンテネグロでは、前回の国勢調査依頼、10年以上にわたって国勢調査が実施されてこなかった。当初は2021年に実施予定であったが、連立政権の相次ぐ瓦解や議会選挙が続く不安定な政治情勢だったこともあり、延期が繰り返されていた。

今回の国政調査は、当初は11月1日からの実施を予定していたが、社会主義者民主党(DPS)を中心とする野党がデータ収集方法の透明性や使用するソフトなどの技術的問題を理由として実施に反対し、野党支持者に対して調査のボイコットを呼びかけたため、再度延期された。11月21日に、成立したばかりのスパイッチ(Milojko Spajić)政権と野党の間で調査手続きや技術的詳細に関する合意が成立し、これを受けて議会は11月30日からの実施を決定していたが、野党側がデータ処理に使用するソフトを調査実施前に公開することを要求したため、更に延期された。

与野党間の合意によれば、モンテネグロ市民は国勢調査用に開発された専用アプリを通じて自身が回答した内容を確認することが出来るとされている。また、調査員が得た回答をデータベースに入力する際には、野党側の代表者を含む国勢調査管理委員会がその作業を管理・監督するものとされている。

国勢調査結果は6ヶ月以内に公表される予定となっている。

モンテネグロ統計局は、「国勢調査の全ての手続きは専門的かつ透明性をもって実施されており、その内容が何らかの意図を持って操作される余地は無い」と述べている。

モンテネグロでは、国勢調査が高度に政治問題化されており、その実施が国内の分断を悪化させることが懸念されている。前回国勢調査結果によれば、自身の民族的出自についてモンテネグロ人と回答したのは45%であり、セルビア人と回答したのは29%であった。一方、自身の母国語について、モンテネグロ語とする回答が37%に留まるのに対し、セルビア語とする回答は43%となっていた。

2020年以降、モンテネグロ国内では、自身をセルビア人やセルビア正教会信者と考える人々とモンテネグロ人との間の分断が深まっており、セルビア人政党は国勢調査においてセルビア人としての回答を明確に行うことを呼びかけると同時に、早期の国勢調査実施を求めていた。

一方で、モンテネグロ人側は、国勢調査によって国内人口におけるセルビア人の比率が高まることへの懸念が強まっており、DPSをはじめとした一部の政党は、「モンテネグロが『セルビア化』される」として国勢調査実施に反対の姿勢を示し、これが選挙の争点にもなっていた。これらの野党や国勢調査に反対する有識者らは、NATO加盟国であるモンテネグロの不安定化を狙うロシアが、こうしたセルビア人の動きの背後に存在しているとも主張している。

今年6月の選挙を経て成立したスパイッチ政権は、実質的にセルビア人政党を連立に取り込む形で成立しており、年内に国勢調査を実施する意向を表明していた。

今回の国勢調査の結果次第では、セルビア語が公用語として学校教育などの現場で使用可能となる可能性もある。また、セルビア人の動きに刺激されたアルバニア人やボシュニャク人も民族的出自や母語についてこれまでと異なる回答をする可能性があるほか、トルコ、ロシア、ウクライナなどからの移民が前回調査時よりも増加していると考えられている。人口約60万人のモンテネグロでは、こうした人々の回答内容によっては、モンテネグロ人やモンテネグロ語話者の人口に占める比率が更に低下する場合もあると考えられている。

モンテネグロ統計局プレスリリース(モンテネグロ語)

(アイキャッチ画像出典:Shutterstock)

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