
【報道】アブダビ国営ADNOC、NISのロシア保有株買収に向けた協議で最有力候補に
12月9日、英フィナンシャル・タイムズ(FT)紙は、セルビア唯一の石油精製会社であるセルビア石油産業(Naftna Industrija Srbije: NIS)のロシア側保有株式について、アラブ首長国連邦(UAE)のアブダビ国営石油会社(Abu Dhabi National Oil Company: ADNOC)が買収の最有力候補として浮上していると報じた。本件は、対ロシア制裁を強化する米国政府からの圧力により、NISの過半数株式を保有するロシア企業が撤退を余儀なくされている状況下での動きである。
FT紙報道によると、ADNOCは現在、NISの株式約56%を保有するロシアのガスプロム・ネフチ(Gazprom Neft)およびその関連会社との間で交渉を進めており、買収競争において優位な立場にあるとされる。一方で、ハンガリーの石油ガス大手MOLなども関心を示しており、交渉は依然として流動的である。NISの2024年の報告書によれば、同社の総資産は約47億ドルに上り、ロシア側の保有分は約26億ドル相当と試算されている。
今回の事態の発端は、米国財務省がロシアの石油収入を削減する目的でNISを制裁対象とし、ロシア資本の完全撤退を求めたことにある。米国外国資産管理室(Office of Foreign Assets Control: OFAC)による制裁免除措置が延長されなかったことを受け、NISは原油調達が困難となり、12月5日には北部のパンチェヴォ(Pančevo)製油所での生産停止を余儀なくされた。OFACは現在、2026年2月13日までの期限付きで所有権移転に関する交渉を認めている。
セルビア政府およびヴチッチ(Aleksandar Vučić)大統領は、ロシア側が売却手続きを遅延させていることに不満を強めている。ヴチッチ大統領は、1月15日までに第三者への売却が成立しない場合、国がNISの経営権を一時的に引き継ぐ用意があるとの姿勢を示している。本来、セルビア政府は自国による株式の買い戻しを希望しているが、ロシア側がセルビア政府への売却に難色を示しているとの情報もあり、UAEとセルビアの緊密な外交関係を背景にADNOCが有力な受け皿として浮上した経緯がある。
NISはセルビア国内に327カ所の給油所を持つ最大の燃料小売ネットワークを有し、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、ブルガリア、ルーマニアでも事業を展開する地域経済の重要企業である。米国の制裁は周辺国にも波及しており、ブルガリアやルーマニアのルクオイル(Lukoil)製油所も同様の圧力に直面している中、今回のNIS売却交渉の行方は西バルカン地域のエネルギー安全保障を左右する重要な局面を迎えている。
(アイキャッチ画像出典:Shutterstock)




































































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