
米制裁による原油不足でNISが製油所稼働停止へ:セルビア政府は金融制裁リスク下での決済維持を表明
12月2日、セルビアのヴチッチ(Aleksandar Vučić)大統領は、同国の石油・ガス大手であるセルビア石油産業(NIS)が、米国財務省外国資産管理室(OFAC)から事業継続に必要なライセンスを取得できず、同国唯一の製油所であるパンチェヴォ製油所の稼働停止が避けられない状況となったことを明らかにした。これを受け、NISは同日、米国による制裁の影響で加工用原油が不足していることを理由に、同製油所の生産設備の稼働停止プロセスを開始したと発表した。
パンチェヴォ製油所の停止と供給への影響
NISのプレスリリースによると、パンチェヴォ製油所での稼働停止は、定期的なオーバーホール(分解点検)時と同様の原則に基づいて行われ、原油が入手可能になり次第、直ちに再稼働できる体制を維持するとしている。NISは、事前に確保していた在庫により、当面の間は国内市場への石油製品の供給を滞りなく継続すると強調した。
今回の事態は、NISの過半数株式をロシア企業が保有していることに起因する。NISの株式構造は、ロシアのガスプロム・ネフチが44.85%、ガスプロムが間接的に支配する企業が11.3%を保有しており、セルビア政府の保有率は29.87%にとどまる。米国財務省は今年1月、ロシア資本であることを理由にNISに対する制裁を発表し、数度の延期を経て10月に完全施行された。これにより、クロアチアを経由する唯一の原油輸入ルートが遮断され、NISは深刻な原油不足に陥っていた。
二次制裁リスクと政府の緊急対応
セルビア政府プレスリリースによれば、ヴチッチ大統領は2日の記者会見で、NISがOFACから新たな運営ライセンスを取得できなかったことを認めた上で、セルビア政府として重大な決断を下したことを表明した。ヴチッチ大統領は「我々は本日、セルビア共和国のリスクにおいて、また中央銀行や商業銀行が制裁を受けるリスクを負ってでも、今週末までNISの決済取引を確保することに合意した」と述べた。
これに先立ち、セルビア国立銀行(NBS)と商業銀行は、米国の二次制裁(セカンダリー・サンクション)の対象となることを避けるため、NISがライセンスを取得できない場合は取引を停止すると警告していた。しかし、ヴチッチ大統領は、NISが従業員への給与支払いやサプライヤーへの債務履行を行う時間を確保するため、政府主導で一時的な救済措置を講じる姿勢を示した。
ロシア側の売却拒否と今後の見通し
制裁解除の条件としてOFACはロシア資本の完全撤退を要求しており、これまで所有権変更に関する交渉期限として2月13日までの猶予を与えていた。NISの株式取得にはアラブ首長国連邦(UAE)のアブダビ国営石油会社(ADNOC)やハンガリーのMOLが関心を示していると報じられている。
しかし、ヴチッチ大統領は「ロシア側が売却を望んでいないことは明らかだ。これは金銭の問題ではなく、政治の問題である」と述べ、交渉が難航していることを示唆した。大統領は、第三者との取引が成立しない場合、1月15日までに国家がNISの経営権を引き継ぎ、適正価格でロシア側の株式を買い取る用意があると改めて表明した。
国内の燃料供給について、ヴチッチ大統領は1月末までは十分な在庫があると国民に冷静な対応を呼びかけた。一方で、エネルギー安全保障に関連し、今週金曜日までにロシアとの間で新たな天然ガス購入契約が締結されない場合、翌週月曜日から他国とのガス調達交渉を開始する意向も併せて示した。
(アイキャッチ画像はパンチェヴォ精油所、出典:Shutterstock)







































































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