コソヴォ議会選挙が実施される：与党LVVは第一党を確保するも単独過半数には届かず

2025.02.11

2月9日、任期満了に伴うコソヴォ議会（一院制、定数120）総選挙が実施された。

選挙結果

クルティ（Albin Kurti）首相が率いる与党「自己決定運動」（LVV）は約40％の得票率で第一党の地位を確保したが、単独過半数には届かず、連立政権の樹立に向けた他党との協力を迫られる結果となった。

コソヴォ中央選挙管理委員会発表に基づく、開票率99％時点での各主要政党の得票率及び予想獲得議席数は次のとおりとなっている。

政党名	得票率（括弧内は前回選挙時の得票率）	予想獲得議席数（括弧内は現有議席数）
自己決定運動（LVV）	40.83％（50.28％）	47（58）
コソヴォ民主党（PDK）	22.15％（17.01％）	25（19）
コソヴォ民主同盟（LDK）	17.59％（12.73％）	20（15）
コソヴォ将来同盟（AAK）社会民主イニシアティブ（NISMA）	7.47％（7.12％）	8（8）
セルビア人リスト（SL）	4.42%（5.09％）	10（10）
その他少数民族政党		10（10）

連立交渉の見通し

政権樹立には61議席以上の議席が必要となるが、いずれの政党も過半数を獲得できておらず、また主要政党間の対立により連立政権樹立は困難な情勢となっている。

9日夜、クルティ首相は党本部で支持者に向けて勝利宣言を行い、120議席の議会で必要となる61議席の確保に自信を示した。また、野党3党が連携して新内閣を形成する可能性については「第2位、第3位の政党が結束してもLVVには及ばない」と述べ、その可能性を否定している。クルティ首相は勝利演説で野党を「動物」や「泥棒」と呼ぶなど、選挙前から野党との連立を否定している。2021年の前回選挙で58議席を獲得したLVVは、セルビア人以外の少数民族政党との連立により過半数を確保し、事実上の単独政権を維持してきた。しかし、前回より10議席以上を失ったことで、これまでと同様の連立枠組では過半数を確保できず、セルビア人政党を含むいずれかの野党からの協力を取り付ける必要に迫られることとなった。

一方で、野党側もLVVとの連立を否定する姿勢を表明している。PDKが首相候補として擁立したハムザ（Bedri Hamza）氏は、10日の記者会見において「4年前にLVVに投票した有権者の多くが今ではLVVに背を向け、PDKやLDKの支持に回った。LVVは絶対的な権力を欲しており、PDKとLVVの間には大きな政策上の相違がある」と述べ、LVVとの連立を否定している。また第3党のLDKも選挙前からクルティ首相との連立を否定している。AAKのハラディナイ（Ramush Haradinaj）党首は、9日時点では「全ては投票結果が確定されてから述べる」と述べてLVVとの連立に含みを持たせていたが、10日の記者会見では「この選挙における勝者は野党であり、自分はLVVに対峙する野党勢力に協力したい」と述べ、LVVとの連立を否定する姿勢を見せた。

セルビア人住民の動向

コソヴォ北部などセルビア人住民が多数派を占める地域では、セルビア政府の全面的な支持を得る「セルビア人リスト」（SL）が大部分のセルビア人票を獲得し、コソヴォ議会においてセルビア人コミュニティに割り当てられている10議席すべてを獲得する勢いを見せている。SLのエレク（Zlatan Elek）党首は、SLが4万票を獲得し10議席全てを維持したと述べている。また、セルビアのヴチッチ（Aleksandar Vučić）大統領も、「コソヴォ政府や欧米からの暴虐な嫌がらせにもかかわらず、SLは大きな勝利を収めた」と述べた。

しかし、セルビア政府に対して批判的なセルビア人政治家であるラシッチ（Nenad Rašić）氏は、「SLの獲得票数は多く見積もっても25,000票程度である」として、自身が率いる政党「自由、正義、生存」（SPO）が少なくとも1議席は確保するはずだと述べている。

コソヴォでは、議会において120議席のうち20議席をアルバニア人以外の少数民族のために確保し、またそのうち10議席はセルビア人に与えることが憲法によって規定されている。また、憲法改正等の重要事項の議決においては、議会の過半数（61票）に加え、少数民族議員の過半数（11票）の賛成が必要とされている。SLは2019年の議会選挙以来、セルビア人に与えられた10議席を全て確保し、これによって重要事項の議決をブロックすることが可能となってきた。仮にSPOが議席を得た場合、こうしたSLによるセルビア人議席の独占と議会における事実上の拒否権保持が崩れる可能性が出てくる。

（アイキャッチ画像出典：Shutterstock）