セルビア:憲法裁が政府によるリオ・ティントの採掘権取り消し決定を違憲と判断
7月11日、セルビア憲法裁判所は、セルビア中西部のヤダル(Jadar)における英豪系鉱山大手リオ・ティントによる24億ドル(約22億ユーロ)規模のリチウム・ホウ素鉱山開発プロジェクトの中止を決定した2022年の政府判断を違憲とする判決を下した。これにより、リオ・ティントによるヤダル鉱山開発プロジェクトは再開される見通しとなった。
憲法裁判所は、政府がプロジェクトの許可を取り消した方法が違憲であり、政府に与えられた権限を逸脱していたと指摘した。ただし、この判決が以前の許可を自動的に復活させるものではないとも付け加えた。
「ヤダル」プロジェクトは、2004年にリオ・ティントの地質学者によって発見された鉱床の開発計画である。セルビア中部のロズニツァ近郊に位置するこの鉱床からは、年間約55,000トンのバッテリーグレードの炭酸リチウムに加え、副産物として160,000トンのホウ酸と255,000トンの硫酸ナトリウムの生産が見込まれている。リオ・ティントは2026年までに地下鉱山の建設を完了し、世界トップ10のリチウム生産者となることを目指していた。
2022年の中止決定は、当時のブルナビッチ(Ana Brnabic)首相が、リオ・ティントが政府の要求した環境保全措置に関する詳細情報を提供しなかったことを理由に下したものだった。これは、地元住民や国内環境保護団体による大規模な抗議活動を受けての判断だった。
今回の憲法裁決を受け、数百人の市民がベオグラードの憲法裁判所前で抗議集会を開い、プロジェクトがヤダル渓谷の環境に深刻な被害をもたらすと主張している。
一方、セルビア政府はプロジェクト再開に前向きな姿勢を示している。マリ(Snisa Mali)財務大臣は、ヤダル鉱山の開発は、実質的にセルビアのGDPの16%に相当する年間100億~120億ユーロの経済効果をもたらすとしている。また、ジェドヴィッチ=ハンダノヴィッチ(Dubravka Djedovic Handanovic)鉱業・エネルギー大臣は、「セルビアのリチウム埋蔵量は欧州第3位であり、欧州市場の20%を供給できる可能性がある」と指摘している。
「ヤダル」プロジェクトは、EUの電気自動車戦略とも密接に関連している。EUは2035年までにEU圏内での新車販売を全て電気自動車にする方針を打ち出しており、そのためにはリチウムの安定供給が不可欠となっている。セルビアの鉱床開発は、この戦略を支える重要な要素となる可能性がある。
しかし、環境保護と経済発展のバランス、そしてEUとの関係強化という複雑な要因が絡み合う中、セルビア政府の今後の対応が注目される。憲法裁判所の判決を受け、政府が新たな許可をどのように検討するか、また地元住民や環境団体の反対をどう扱うかが焦点となるだ。
リオ・ティント社は判決を歓迎し、「ヤダル・プロジェクトとそれがセルビアにもたらすユニークな機会と利益を常に強調してきた」とコメントしている。
(アイキャッチ画像出典:Shutterstock)
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