トルコ大統領がセルビアを訪問:軍用無人航空機製造におけるセルビアとの二国間協力の可能性を示唆
10月10日及び11日、トルコのエルドアン(Recep Tayyip ERDOĞAN)大統領がセルビアを訪問し、ヴチッチ(Aleksandar Vučić)大統領等のセルビア側要人と会談を行った。このうち、ヴチッチ大統領との会談後の共同記者会見では、軍事用無人航空機(UAV)の共同製造を含む、軍事部門でのセルビアとの二国間協力の可能性を示唆する発言を行った。エルドアン大統領のセルビア訪問は2022年の前回訪問以来、2年ぶりとなった。
セルビア・トルコ大統領会談
11日、ヴチッチ大統領とエルドアン大統領はセルビア宮殿での会談を行った。セルビア政府プレスリリース及びセルビア大統領府プレスリリースによれば、会談後の記者会見において、ヴチッチ大統領は、「エルドアン大統領の訪問は我々の二国間関係を強化し、西バルカンの安定に貢献するものである。セルビアとトルコの間には長い協力の歴史があり、今回のような会談は、特に安全保障と経済の分野においてそのような協力関係を強化する。我々の協力関係はバルカンの平和と安定の要である」と述べた。
一方、エルドアン大統領は、トルコとセルビアの関係は「黄金期」を迎えていると指摘したうえで、特に経済関係の発展が、両国の全般的な二国間関係強化の推進力になっているとの見解を示した。またエルドアン大統領は、ヴチッチ大統領との会談では、ガザ紛争をはじめとした国際的な紛争問題やバルカン地域情勢が議論されたと述べつつ、イスラエルは直ちにガザやレバノンに対する攻撃を止めねばならず、またパレスチナ問題は独立したパレスチナ国家の樹立によって解決されねばならないと述べた。セルビアには先月、イスラエルのヘルツォグ(Isaac Hercog)大統領が訪問しており、その際、ヴチッチ大統領との間で、セルビア・イスラエル間の自由貿易協定(FTA)締結に向けた交渉を行うことが合意されている。
両大統領は、会談における主要な議題の一つが軍事産業分野における両国の協力関係強化であったと述べた。これを受けて記者から、「両国の軍事産業協力の中には、(トルコ企業が製造し世界各地で使用されている)無人航空機(UAV)バイラクタルの製造も含まれるのか」と問われたエルドアン大統領は、「セルビアの軍事産業には一定水準の能力があり、我々もまた一定水準の能力を有している。友好国同士として、共同で能力を向上させることは可能である。トルコとセルビアの友好関係を好ましく捉える者もいれば、そうで無い者もおり、それは自然なことである。しかし、我々は政治指導者であり、我々の関係について、我々自身が独立した決定を下すことが重要である」と述べ、無人航空機製造における協力の可能性を示唆した。
またヴチッチ大統領は、「トルコの軍事産業はUAVの開発と製造において我々よりも遙かに優れているが、セルビア軍事産業が有する能力は無視されるべきではない」と述べた。
セルビア政府は以前、セルビア軍がバイラクタルをトルコから購入する計画があると表明していたが、その後トルコがコソヴォに対してバイラクタルを提供したことを受け、バイラクタル導入計画を撤回したと発表している。コソヴォへのバイラクタル提供が発表された際、ヴチッチ大統領は、「このトルコの決定はセルビアにとって厳しいものであり、セルビアとトルコの関係にも影響を与えるだろう」と述べていた。
エルドアン大統領は、セルビア訪問に先立ちアルバニアを訪問しており、その際、アルバニアのラマ(Edi Rama)首相は、エルドアン大統領が「相当数のトルコ製自爆型UAVをアルバニアに提供することに合意した」と述べていた。
両国間の経済関係について、ヴチッチ大統領は、貿易額の著しい増加を指摘し、両国の今年の貿易額が26億ユーロを超えるとの見通しを示した。ヴチッチ大統領はまた、トルコはセルビアにとって最も重要な投資国の一つであると述べた。これに対しエルドアン大統領は、トルコからセルビアへの投資額は既に4億米ドルを超えており、その投資はセルビア国内で9,600人以上の雇用を生み出していると指摘した。
二国間文書の署名
セルビア政府プレスリリースによれば、今回のエルドアン大統領の来訪に際し、セルビア・トルコ間で次の11の二国間文書が署名された(強調表示は当サイトによるもの)。
- 災害及び緊急事態対応における両国内務省間の協力に関する覚書
- 労働、雇用、社会保障分野における両国関係省庁間の協力に関する覚書
- セルビア経済省とトルコ産業・技術省の協力に関する覚書
- エネルギー転換における両国担当省庁間の協力に関する覚書
- スポーツ分野での協力に関する両国関係省庁間覚書
- セルビア・トルコFTAの改正に関する両国共同委員会決定
- 青年分野での協力に関する両国担当省庁間覚書
- 情報・メディア分野における両国担当省庁間協力に関する覚書
- ベオグラード市とガジアンテップ市の協力に関する議定書
- 両国公文書館間の協力に関する議定書
- ベオグラード歴史研究所とトルコ歴史学会アタチュルク文化・言語・歴史最高評議会の学術協力に関する覚書
サンジャク地域訪問
トルコ大統領府プレスリリースによれば、エルドアン大統領は、ボシュニャク系(イスラム教徒)住民が多数居住するセルビア南西部サンジャク地域を訪問し、現地の宗教指導者や政治家等との会談を行った。エルドアン大統領のサンジャク訪問には、トルコのフィダン(Hakan Fidan)外務大臣も同行した。
このほか、エルドアン大統領の訪問中には、セルビア・トルコ・ビジネスフォーラムが開催された。
(アイキャッチ画像出典:セルビア大統領府)
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