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【報道】モンテネグロがEUの支援を受けて首都圏の下水処理施設建設に着工:EU加盟に向けた重要案件に対し地域住民は健康被害懸念から猛反発

12月30日、モンテネグロ政府は、首都ポドゴリツァ(Podgorica)の下水処理問題を抜本的に解決するための新施設建設プロジェクトを、南部の自治体ゼタ(Zeta)市のボトゥン(Botun)地区において着工した。着工に際しては、環境汚染への懸念から建設現場の封鎖を試みた地元住民ら20人以上が警察に拘束される事態となったが、同日正午までに警察が現場を強制排除し、重機の搬入と作業が開始された。

出典:Vijesti Online

本プロジェクトの総事業費は7,660万ユーロに上り、欧州連合(EU)が主導する西バルカン投資枠組み(Western Balkans Investment Framework:WBIF)から拠出される3,400万ユーロの無償資金、およびドイツ復興開発金融公庫(Kreditanstalt für Wiederaufbau:KfW)による3,500万ユーロの融資、さらにモンテネグロ政府の拠出金によって資金が調達されている。

ポドゴリツァの現行の下水処理施設は1970年代に5万人規模の処理能力で建設されたものであり、現在は18万人以上の住民が利用しているため、未処理の下水の約半分が直接モラチャ川(Morača)に放流されている。これがシュコダル湖(Skadar Lake)国立公園やアドリア海の環境悪化を招いており、新施設の建設は喫緊の課題となっていた。

ムヨヴィッチ(Saša Mujović)ポドゴリツァ市長は、本施設の建設が公衆衛生と環境保護において極めて重要であると強調し、2025年末までに着工しなければ承認済みの融資や贈与金に対して罰則が課されるリスクがあったと言及した。また、ラドゥノヴィッチ(Slaven Radunović)空間計画・都市計画・国家資産相は、建設予定地周辺の住民が、隣接する旧ポドゴリツァ・アルミニウム製錬所(Kombinat Aluminijuma Podgorica:KAP)の赤泥プールによる深刻な汚染に長年苦しんできた経緯に理解を示した。その上で、新施設が稼働することでモラチャ川や地下水の汚染状況はむしろ改善されるとの見通しを示し、最も影響を受ける住民への補償や移転の可能性についても言及した。

一方で、ボトゥン地区の住民やゼタ市、および親セルビア系の民主人民党(Demokratska narodna partija:DNP)などは、過去のKAPによる健康被害を背景に、建設場所の変更を求めて強く反発している。直近の非拘束の住民投票では、住民の約99%が建設に反対票を投じていた。これに対し政府は今月、住民の不安を払拭するため、新施設の稼働に先立ちKAPの赤泥プールおよび有害廃棄物埋立地の浄化を優先的に実施し、稼働後も排出量がEU基準を超えた場合には即座に操業を停止するという一連の安全対策を採択している。

サトラー(Johann Sattler)駐モンテネグロEU大使は、本プロジェクトが環境と気候変動に関する交渉分野である「チャプター27」の交渉完了にに不可欠な国家的重要性を持つと指摘している。モンテネグロ政府は2026年末までに全ての加盟交渉分野を閉鎖し、2028年のEU加盟を目指しており、本インフラの整備はその達成に向けた決定的な一歩となる。

なお、建設の実務はポドゴリツァの公共事業会社である上下水道公社(Vodovod i Kanalizacija)と契約を結んだトルコの企業連合、クズ・グループ(Kuzu Group)およびアルカタシュ(Alkatas)が担い、ドイツのフィヒトナー・ウォーター・アンド・トランスポーテーション(Fichtner Water & Transportation GmbH)がコンサルタントとして参画している。

(アイキャッチ画像出典:Vlada Crne Gore)

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