
ボスニア・EUハイレベル会合が急遽中止に-ドディック氏の有罪判決めぐる対立で重要改革関連法案の承認が頓挫
12月8日、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ(BiH)閣僚評議会(内閣に相当)において、欧州連合(EU)加盟交渉の開始に不可欠とされる重要改革法案の審議が、セルビア系政党の反対により中止となった。これを受け、同日から9日にかけてブリュッセルで予定されていたボスニアの政党指導者らとEU指導部とのハイレベル会合が急遽中止となった。
今回の閣僚評議会では、「裁判所法」および「高等司法検察評議会(VSTV)法」の改正案、さらにEUとの加盟交渉におけるBiH側首席交渉官の任命に関する決定が議題となる予定であった。これらはEU側が加盟交渉の枠組みを設定するための前提条件として求めていたものである。
しかし、BiHを構成する2つの政体(エンティティ)のうちの一つであるスルプスカ共和国(RS)の与党であり、BiH国政におけるセルビア系与党でもある独立社会民主同盟(Savez nezavisnih socijaldemokrata:SNSD)所属のコシャラツ(Staša Košarac)対外貿易・経済関係大臣およびアミジッチ(Srđan Amidžić)財務大臣が議題の採択に反対し、審議自体が不成立となった。
SNSD側が審議拒否の理由として挙げたのは、ボスニア紛争を終結させたデイトン和平合意の履行を監督する、国際社会の代表者であるシュミット(Christian Schmidt)上級代表によって制定された刑法規定の撤廃であった。この刑法規定は、シュミット氏の決定に従わない公務員を処罰対象とするもので、SNSD党首でありRS前大統領であるドディック(Milorad Dodik)氏が憲法裁判所の判決を履行しなかったとして有罪判決を受けた法的根拠となっている。
コシャラツ大臣は、EUが求める司法改革法案を議論する条件として、まずこの刑法規定を無効化し、ドディク氏への判決根拠を取り除くことを要求した。コシャラツ大臣は「ボスニアの主権か、国際的な保護領かを選ぶべき時だ」と述べ、シュミット上級代表の正当性を否定する従来の主張を繰り返した。
在BiH・EU代表部のソレツァ(Luigi Soreca)EU特別代表は、サラエヴォでの記者会見で「これら2つの法律がEU基準に完全に適合した形で採択されなければ、加盟交渉の開始は期待できない」と明言した。また、これらの改革はEUが主導する「西バルカン成長計画」に基づく約9億7,000万ユーロの資金支援を受けるための条件にもなっており、法案不成立によりこの巨額支援へのアクセスも危ぶまれる状況となっている。
BiH国政連立政権の一角を占めるボシュニャク系の「我々の党(Naša stranka:NS)」党首を務めるフォルト(Edin Forto)通信交通大臣は、「今年は失われた1年となった」と強い危機感を示した。フォルト大臣は、SNSDを「反欧州的な政党」であるとして非難すると同時に、連立パートナーであるクロアチア民主同盟(Hrvatska demokratska zajednica Bosne i Hercegovine:HDZ BiH)についても、SNSDの妨害行為を黙認しているとして「共犯者」であると批判した。
輪番制の閣僚評議会議長(首相に相当)を現在勤めるHDZ BiH所属のクリシュト(Borjana Krišto)議長は、SNSDが土壇場で全く新しい条件を持ち出したとし、「残念ながら政治的意思が欠如していた」と述べた。
次回の閣僚評議会は12月16日に予定されており、これが今年中に進展を見せる最後の機会となるが、ドディク氏の法的地位に関するSNSDの要求は強硬であり、妥結の見通しは不透明となっている。
(アイキャッチ画像出典:Shutterstock)



































































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