【報道】セルビア大統領「NISが米国の制裁対象になり、セルビアへの石油供給が断たれる可能性がある」
ヴチッチ(Aleksandar Vučić)大統領は、露ガスプロムが所有するセルビア最大の石油・ガス会社NISに対し、米国が数日以内に制裁を課すと述べた。
12月15日、地元テレビ局インフォーマーTVの番組に出演したヴチッチ大統領は、「公式の外交チャンネルと情報機関を通じて得た情報」として「ロシア資本による所有を理由に、米国はNISに対して全面的な制裁を課すだろう」と述べ、早ければ2024年1月1日から制裁が発効する可能性があるとした。また、英国もこの制裁に加わる見通しであり、この制裁によりヤナフ・パイプラインを通じたクロアチア経由でのセルビアへの石油供給が停止する可能性があると指摘した。
NISの株式構成は、ガスプロムが56.15%(ガスプロムネフチ50%、ガスプロム6.15%)、セルビア政府が約30%を保有している。ブチッチ大統領は「ロシア側のパートナーと協議し、ロシア資本の所有比率を50%未満に引き下げる可能性を検討する必要がある」と述べる一方で、「セルビアの国家安全保障会議議長として、現時点でロシアへの制裁を検討する用意はない」と強調した。
セルビアはロシアからのガス輸入に大きく依存しており、ガスプロムとの新たな協定のもとで供給量の増加を計画している。現在、石油供給はヤナフ・パイプラインのみに依存しているが、エネルギー源の多様化を目指し、ハンガリー経由でドルジバ・パイプラインへの接続も計画している。
ヴチッチ大統領の発言を受けて声明を発表したNISは、現時点で事業活動に法的制限はないとしながらも、状況を注視し事業への潜在的な影響を分析していると述べている。
NISは2008年にガスプロムネフチが過半数株式を取得し、その後56.15%まで持株比率を引き上げた。2022年には、ガスプロムネフチが保有する6.15%の株式を親会社のガスプロムに譲渡している。
この報道を受け、ベオグラード証券取引所でNISの株価は一時20.1%下落した。NISの財政規模はセルビア国家予算の約9%に相当しており、セルビアにとって、エネルギー安全保障上のみならず財政上も極めて重要な企業となっている。
ヴチッチ大統領の発言後、Euronewsセルビア語版のインタビューに答えたヒル(Christopher Hill)駐セルビア米国大使は、「2008年当時20億ドル以上の価値があったNISの株式の過半数を、ガスプロムが市場価値をはるかに下回る価格で取得した」と指摘したうえで、「現在セルビアで最も収益性の高い企業となったNISの利益が、ウクライナへの軍事侵攻やバルカン地域の不安定化に使われている」として、所有構造の変更を求める姿勢を示した。
ヒル大使はまた、タンユグ通信のインタビューに対し、「米国が実際にNISに制裁を課すか否かを語る立場には無いが、仮に制裁が課されたとしても、それはセルビアやセルビア経済に対するものではない。セルビアは米国にとって重要なパートナーであり、NISに対する制裁がセルビア経済を害することはない」と述べ、NISに対する制裁の可能性を否定しなかった。
この数日前には、ブルガリアが、米国によるガスプロムバンクへの制裁の影響により、ブルガリア経由でのセルビアへのガス供給が停止する可能性があると明らかにしており、本格的な暖房シーズンの到来を前に、セルビアへのエネルギー供給が大きな影響を受ける可能性が出てきている。
(アイキャッチ画像出典:Shutterstock)
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