セルビア政府がヤダル・リチウム鉱床の開発計画に関する協議をリオ・ティントに提案
1月17日、セルビアのブチッチ(Aleksandar Vučić)大統領は、セルビア政府が、鉱業大手リオ・ティント(Rio Tinto)社(英・豪)に対し、抗議運動の高まりに対応する形で一旦はセルビア政府が開発許可を取り消したセルビア西部ヤダル(Jadar)地域でのリチウム鉱床開発計画について、改めて協議を申し入れていると明らかにした。
世界経済フォーラムへの出席のためにダボス(スイス)訪問中のブチッチ大統領が、セルビア国内メディアの取材に答える中で述べたもの。ブチッチ大統領は、「我々はリオ・ティントとの間で合意に至ることが出来るかを検討している。最も重要なのはリオ・ティントの言い分に耳を傾け、セルビア国民との間でオープンな話し合いを持つことである。リオ・ティントは、セルビア国民が納得するような世界最高水準の環境保護と労働者の健康維持のための対策を示す必要がある。」と述べる一方で、「リオ・ティントはセルビアに対し訴訟を提起する権利があり、我々はリオ・ティントに対しそのような手段に訴えることが無いよう呼びかけている。」と明らかにした。
セルビア西部ロズニツァ(Loznica)近郊で2004年に発見されたヤダル鉱床は、年間約5万5千トンのバッテリーグレード炭酸リチウムに加え、16万トン/年のホウ酸、25万5,000トン/年の硫酸ナトリウムの生産能力を有していると考えられている。リオ・ティントは2017年にセルビア政府との間でヤダルにおけるリチウム鉱床開発計画を実施するための了解覚書を締結し、調査試掘を進めた結果、2021年7月にはヤダル鉱床での商業採掘事業に24億ドルを投資すると発表した。
ヤダル開発計画の解説映像 出典:リオ・ティント社公式Youtubeチャンネル
しかし、鉱床の開発によるヤダル周辺地域の環境破壊を懸念する地元住民を中心とした市民グループは、リオ・ティントの開発計画に反対する抗議運動を展開し、これに多数の環境保護団体や市民グループが呼応する形で抗議運動が急激に拡大し、2021年12月には、首都ベオグラードをはじめセルビア全土で抗議集会参加者が主要道路を封鎖するなどの事態に発展した。
リオ・ティント側は、地元住民との対話を通じてヤダル開発計画への理解を求めるために計画の一時中断を発表したが、セルビア政府は2022年1月に、リオ・ティントに対し付与されていたヤダル開発計画の許可を取り消す決定を行った。
2021年の抗議運動を主導した市民グループなどは、今般のブチッチ大統領の発言に対し懸念を表明しており、ヤダル鉱床開発計画の再開は決して認めず、今後も計画阻止のための戦いを継続すると述べている。
一方で、欧州最大のリチウム鉱床と見られているヤダル鉱床の開発については、需要のほとんどを欧州域外からの輸入に頼っているEUをはじめ、リオ・ティントの本拠地である英及び豪なども明確な支持を表明していた経緯がある。
電気自動車やスマートフォンの充電池の原料となるリチウムは今後の需要拡大が確実視されており、2050年までに現在の60倍の需要が生まれるとの試算もある。
ヤダル鉱床に関する解説ページ(リオ・ティント社ウェブサイトより)
(独)エネルギー・金属資源開発機構(JOGMEC)による解説資料(「世界の鉱業の趨勢2022 セルビア」)
(アイキャッチ画像はヤダル鉱床周辺地域の風景 出典:Shutterstock)
この記事へのコメントはありません。