習近平のセルビア訪問に見るセルビアの「バランス外交」

セルビアのヴチッチ(Aleksandar Vucic)大統領は、8年ぶりにセルビアを訪問した中国の習近平国家主席を盛大に出迎えた。その歓迎ぶりは、欧米メディアから「北朝鮮方式」と表現されるほどであった。セルビア野党は、ヴチッチ大統領のこの中国に対する歓待は事実上のEU加盟方針の放棄だとして非難したが、ヴチッチ大統領は野党の指摘を否定した。ヴチッチ大統領はEU代表団が主催したヨーロッパデーのレセプションでのスピーチや、ウクライナのファーストレディと外務大臣の突然のセルビア訪問の受け入れ、そしてEU拡大担当委員の3日間のセルビア訪問を通じて、欧米に対するメッセージを送った。

これらの動きは、多様なパートナー国から最大限の利益を引き出そうとするヴチッチ大統領の姿勢を示している。彼は、東西のバランスを取る政策を一貫して実行し続けている。

1.セルビア・中国関係の現状と見通し

習近平主席を盛大に迎え入れることで、ヴチッチ大統領は中国、西側諸国、そして国内の有権者に対して重要なメッセージを送った。中国に対しては、セルビアにとっての中国との政治的・経済的協力の重要性を示し、西側諸国に対しては、セルビアには(ロシア以外にも)「頼れるパートナー」がいることをアピールした。またヴチッチと彼の政党を支持するセルビアの有権者(その多くは反欧米環状が強い)に対しては、ヴチッチの心情が彼らと同じ側にあることを示す格好の機会となった。

ただし、外交行事としての習近平主席の訪問自体は成功したと言えるが、具体的な成果は少なく、実質的な価値のある合意はほとんどなかった。28の覚書が署名されたが、その多くは実効性の乏しい覚書の類いであり、実際の影響力は極めて限定的である。唯一の具体的な成果として、エネルギー分野における合計27億ユーロに相当する中国企業による新たなセルビアへの投資契約があるが、これのみでは期待に沿う成果とは言えないであろう。

もう一つの注目される要素は、今回署名された首脳間の共同声明に書き込まれた「運命共同体(Community of Shared Future)」という表現である。これは新しい表現だが、その具体的な内容は明確にされなかった。政治的、経済的、軍事的、あるいは単なる長期的な協力なのか、明らかではない。実際のところ、これは両国にとって都合の良い外交的な言葉遊びに過ぎない可能性が高い。北京にとっては欧州に強力な友人がいることを示し、ベオグラードにとっては西側諸国を「中国という選択肢」で牽制する意味合いがある。

習近平主席の訪問中の発言の多くは、以前に締結された自由貿易協定に関するものだった。この協定はセルビア議会で批准されているが、中国側はまだ批准していない。7月1日に発効予定のこの協定により、セルビアは多くの製品を無関税で中国に輸出できるようになる。セルビアの政府高官はこの協定を高く評価しているが、懐疑的な見方もある。自由貿易協定は確かに貿易量の増加と双方の利益をもたらすが、それは対等なパートナー間でのみ成立する。中国とセルビアの貿易関係は明らかに対等ではない。2023年の両国間の貿易総額60億ドルのうち、セルビアの貿易赤字は36億ドルに達している。

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