
米国がドディック氏らボスニア・セルビア系政治勢力への制裁を解除-米国のボスニアへのアプローチ変化の兆候か
10月29日、米国財務省外国資産管理局(Office of Foreign Assets Control, OFAC)は、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ(BiH)の構成体であるスルプスカ共和国(Republika Srpska, RS)のミロラド・ドディック(Milorad Dodik)前大統領とその家族や親族、およびRSの他の主要政治家や関連企業数十件に対する制裁を解除したと発表した。OFACプレスリリースによれば、解除対象には、BiH大統領評議会のジェリカ・ツヴィヤノヴィッチ(Željka Cvijanović)セルビア人メンバー、RS議会のネナド・ステヴァンディッチ(Nenad Stevandić)議長、ラドヴァン・ヴィシュコヴィッチ(Radovan Višković)前RS首相なども含まれている。
この決定について、BiHの政界やメディアは、トランプ(Donald Trump)米国政権によるBiHへの「新たなアプローチ」を示唆するもの、あるいは水面下での「政治的取引」の結果であるとの見方を示しており、BiH国内での波紋が広がっている。
この決定は、ドディック氏が8月にBiH国家裁判所から有罪判決(後に罰金刑に変更)と6年間の公職追放を言い渡され、RS大統領の職を失ったことを受けて行われた。これに伴い、BiH中央選挙管理委員会は同氏の任期を失効させており、RSでは11月23日に繰り上げ大統領選挙が予定されている。
ドディック氏は2017年に初めて米国の制裁対象となり、2022年1月にはデイトン和平合意(Dayton Peace Accords)の違反・妨害および汚職を理由に追加制裁を受けていた。
ドディック氏は同日、X(旧Twitter)への投稿で、トランプ(Donald Trump)米国大統領に対し、「RSとその代表者、家族に加えられた重大な不正義を正した」として感謝を表明した。ドディック氏は、この制裁が「(バラク・)オバマ(Barack Obama)、(ジョー・)バイデン(Joe Biden)両政権によって行われた不正義」であったと非難し、今回の解除は「法的な修正であるだけでなく、RSに関する真実と、それに名誉をもって仕えた全ての人々の道徳的擁護でもある」と主張した。さらに、「我々に対する非難は虚偽とプロパガンダに過ぎなかった」とし、これをBiHにおける国際社会の代表者であるシュミット(Christian Schmidt)上級代表が「作り出した混乱の基礎」だと断じた上で、「RSは決して倒れない」と強調した。
I am grateful to President Donald Trump @realDonaldTrump and his associates for correcting a grave injustice inflicted upon Republika Srpska, its representatives, and their families – an injustice perpetrated by the Obama and Biden administrations.
— Милорад Додик (@MiloradDodik) October 29, 2025
The decision to lift the…
今回の米国の決定については、ハンガリーのシーヤールトー(Péter Szijjártó)外務貿易相もこの決定を歓迎するコメントを自身のXアカウントに投稿している。
Great decision! President Dodik has done a lot for RS and for Hungary–RS relations. I hope all European colleagues will understand the message of this decision! https://t.co/aTnuB3jqwV
— Péter Szijjártó (@FM_Szijjarto) October 29, 2025
一方で、セルビア政府からは、ウズベキスタン訪問中のヴチッチ(Aleksandar Vučić)大統領が、本件に関するコメントを求める報道陣からの声に対し、「セルビアは常に黙って耳を傾け、(RSを)支援するために最善を尽くしてきた」と述べるに留まっており、その他のセルビア政府要人からは、公式のコメントは発表されていない。
一方で、今回の唐突とも言える制裁解除については、野党やアナリストから「政治的取引」があったとする批判的な見方が強く出ている。ニュースポータル「バルカン・インサイト」の報道によれば、RS野党「法と秩序のために(Za Pravdu i Red, ZPR)」のヴカノヴィッチ(Nebojša Vukanović)党首は、これを「政治的取引」と断じ、「ドディック氏が米国の歓心を買うために何を裏切ったのか。BiHのNATO加盟か、それともリチウム鉱床やRS電力公社(Elektroprivreda Republike Srpske)といった資源か」と厳しく問いかけた。さらにヴカノヴィッチ氏は、ドディック氏がこの解除を「(ロシアのプーチン大統領と米国のトランプ大統領の)双方から支持されていると装い、世界的に重要な人物であるかのように見せかける」選挙キャンペーンの道具に利用し、この「降伏」を(RS大統領選挙での)「勝利」に変えるだろうと予測した。
BiH外交政策アナリストのアヴダギッチ(Denis Avdagić)氏も、これを「ムチ(制裁)の後のアメ」と表現し、ドディック氏による「違憲な法律の撤回、大統領職からの平和的な退陣、裁判所の判決の受け入れ」といった譲歩に対する「報酬」である可能性を指摘した。また、BiH議会与党「我々の党(Naša Stranka)」のチュディッチ(Sabina Čudić)党首は、ドディック氏の退陣や国家機関・憲法裁判所の決定の受入れといった米国側の主要条件が満たされたと評価された可能性があると言及した。
今回の制裁解除は、2017年にオバマ政権下で始まり、トランプ前政権(第1期)でも継続され、バイデン政権下で拡大された措置を覆すものである。ドディック氏がRS大統領選の事実上の後継候補として指名するシニシャ・カラン(Siniša Karan)前内相も、RSの分離主義的な法案作成に関与したとして制裁対象となっていたが、今回解除された。
しかし、クロアチア民主同盟(HDZ)所属のチャヴァラ(Marinko Čavara)BiH議会下院議長(FBiH大統領時代に憲法裁判所判事の任命を妨害したとして制裁対象)らが依然としてリストに残っている理由は不明確なままである。
OFACは解除の具体的な理由を説明しなかったが、ボスニア情勢に関するポータルサイト「Detector.ba」の報道によれば、米国務省は取材に対し、今回の措置が「ドディック氏のRS大統領からの退陣」および「(同氏の主導で採択された)物議を醸す法律の廃止」に直接関連していることを認めている。国務省は、「RS国民議会がここ数週間でとった建設的行動は、BiHの安定性を高め、共通の利益、経済的潜在力、相互繁栄に基づく米国とのパートナーシップを可能にするはずだ」との声明を発表し、今後は「BiHの政治的スペクトラム全体」の関係者と協力していく意向を示した。
しかし、米国シンクタンク「民主化政策評議会(Democratization Policy Council)」のカート・バスエナー(Kurt Bassuener)氏は、「『相互繁栄』という言葉が使われているが、それは投資、鉱物資源、あるいはドディック氏が譲歩し得る何かを意味するのか」と疑問を呈し、ワシントンの決定の真意はまだ明らかになっていないと分析している。
(アイキャッチ画像出典:Shutterstock)





































































 
 
 
 
 
 
 
 
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