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コソヴォ当局がセルビア政府高官を拘束-セルビアはコソヴォとの関係正常化交渉中断を表明

7月21日、セルビア政府は、同国政府のコソヴォ・メトヒヤ事務所(Office for Kosovo and Metohija)の副長官であるポポヴィッチ(Igor Popović)氏がコソヴォ当局に逮捕されたことを受け、コソヴォとの関係正常化に向けたプロセスを中断すると発表した。この決定は、両者間の緊張を再び著しく高めている。

事件の発端は7月18日、ポポヴィッチ氏がコソヴォ北部のブルニャク(Brnjak)国境検問所を通過しようとした際に逮捕されたことによる。コソヴォ側裁判所はその後、同氏に対し30日間の勾留を命じた。容疑は「憎悪と不寛容の扇動」であり、同氏が逮捕前にオラホヴァツ(Orahovac)近郊のヴェリカ・ホチャ(Velika Hoča)で行った演説で、コソヴォ解放軍(Kosovo Liberation Army, KLA)の行動を「今日のガザで犯されている犯罪」になぞらえて非難した発言が問題視された。

セルビア側はこれに激しく反発している。コソヴォ・メトヒヤ事務所のペトコヴィッチ(Petar Petković)長官は今回の逮捕を「法の乱用」だと非難し、ポポヴィッチ氏が解放されるまで欧州連合(EU)が仲介するコソヴォとの関係正常化対話を再開しないと明言した。セルビアのヴチッチ(Aleksandar Vučić)大統領は、コソヴォ側の動きについて、コソヴォのクルティ(Albin Kurti)首相による意図的な挑発だと厳しく批判した。セルビアのジューリッチ(Marko Đurić)外相は、欧米主要5カ国(米、英、独、仏、伊)コソヴォ未承認のEU加盟国5カ国(スペイン、ギリシャ、スロヴァキア、キプロス、ルーマニア)の大使らと相次いで会談し、逮捕は対話の精神に反する一方的な行動だとし、ポポヴィッチ氏の即時解放とEUによるコソヴォへの明確な非難を要求した。

一方、コソヴォのクルティ首相は、ポポヴィッチ氏の扱いは国内法と国際人権基準に則ったものだと述べ、政治的迫害との非難を一蹴した。同首相は、セルビアこそが「不安定化キャンペーン」を展開していると反論し、KLAに対する攻撃は「バルカンの平和と安全保障への直接的な脅威」だと主張した。

この事態に対しEUは、コソヴォ・セルビア系メディアからの質問に答える形で、事態を注視していると述べた上で、コソヴォ当局に法の支配と適切な司法手続きの完全な遵守を求めた。またEUは、いかなる強制的な勾留も正当化され、かつ相応のものでなければならないと強調し、関係正常化に有害な言動を避けるよう双方に強く促した。

セルビアが国際社会からの明確な非難を求める中、当初の反応は慎重なものとなっている。コソヴォ・セルビア系ニュースサイト「Kosovo Online」の報道によれば、在コソヴォのドイツ、イギリス、イタリア大使館はそれぞれ事件を注視していると述べ、「法の支配の尊重」を求めるに留まった。欧州安全保障協力機構(OSCE)も同様の立場を示し、国連コソヴォ暫定行政ミッション(UNMIK)は逮捕に「懸念」を表明しつつ、双方に自制を求めた。

コソヴォは2008年にセルビアからの独立を宣言したが、セルビアはこれを承認していない。逮捕されたポポヴィッチ氏は、2011年から続くEU主導の対話におけるセルビア側の主要な交渉担当者の一人であり、今回の事件は停滞する正常化プロセスにさらなる打撃を与えるものとなっている。

(アイキャッチ画像出典:Shutterstock)

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