コソヴォ当局がディナール使用禁止規則の執行を開始:欧米はコソヴォ側の動きを非難

2月1日、コソヴォ当局は、事前に発表していたとおり、1月17日に制定されたユーロ以外の通貨の使用を原則禁止する規則の執行を開始した。これにより、コソヴォ中銀の承認を受けた金融機関以外はユーロ以外の通貨の取り扱いが禁止された。

一方、コソヴォ政府は、新規則に対応するための「移行期間」を設けることを発表しており、日常的な決済においてディナールを使用した場合であっても、当面の間は罰則は適用されないとしている。しかし、2月3日には、ディナール現金をセルビアから輸送していた車両が、輸送していた現金とともにコソヴォ警察によって押収された。

欧米主要国はコソヴォ政府に対し、新規則がセルビア人住民に及ぼす影響を懸念し、その施行を延期するよう求めていたが、コソヴォ側がこれを押しきる形での施行となった。

また、この新規則施行と同時に、コソヴォ各地のセルビア人居住地域において、セルビア政府が運営する機関に対するコソヴォ警察の家宅捜索と閉鎖が相次いでいる。

1月26日にはドラガシュ(Dragash/Dragaš)において、また2月2日にはペーチ(Peja/Peć)、イストク(Istog/Istok)、クリナ(Kline/Klina)において、セルビア人住民に対する公的文書発行などを行っていたセルビア系機関の事務所がコソヴォ警察によって閉鎖された。これに加え、2月3日には、セルビア人を含むコソヴォ内少数民族系住民への支援を行っていたNGOのプリシュティナ事務所が閉鎖された。

一連のコソヴォ当局の動きに対し、欧米主要国からは非難の声が挙がっている。

フベニル(Jeffrey M. Hovenir)駐コソヴォ米国大使は、2月3日に次の通り声明を発表した(強調表示は当サイトによるもの)。

米国政府は、コソヴォ政府当局による最近の行動に深い懸念を抱いている。これらの行動は、コソヴォのセルビア系住民およびその他の少数民族コミュニティの構成員に直接的かつ否定的な影響を及ぼすものである。これらの行動は不必要に民族間の緊張を高めており、結果として、国際場裡においてコソヴォの効果的な擁護者として米国が活動するという選択肢を制限している。これらの行動には、過去1週間にわたり内務省の指示の下でコソヴォ警察が実施した、ドラガシュ/ドラガシュ、ペヤ/ペチ、イストグ/イストク、クリナ/クリナに所在するセルビアが管理する機関の事務所、および首都プリシュティナにあるNGO「平和・寛容センター」に対する作戦が含まれる。また、本日コソヴォ警察がセルビア・ディナールおよびそれを運搬していた車両を押収し、セルビアからの社会給付金の配布を妨げたことについても懸念している。コソヴォ当局に対し、これらの社会給付金の受給予定者が遅滞なく給付金を受け取れるよう保証することを求める。

コソヴォ政府には、その建国時に掲げられ、独立宣言と憲法に明記された構想を推進する責任がある。その構想とは、すべての市民の懸念に応える完全な多民族民主主義の実現である。コソヴォにおけるセルビア支援の組織に関連する問題は、EUが仲介する対話を通じて対処されるべきである。同様に、コソヴォ中央銀行の現金取引に関する改正規則の施行を延期するよう再度要請する。これは、欧州基準に沿った適切な手続きが整い、住民に給付金の移行方法について十分な情報が提供されるまでの措置である。

出典:在コソヴォ米国大使館ウェブサイト

EU対外活動庁(EEAS)のスタノ(Peter Stano)報道官は、2月1日、コソヴォ政府による改正規則施行を受けて次のとおり声明を発表した。

EUは、本日発効するコソボ中央銀行による規則に留意する。同規則は、資金の流れの透明性を高め、金融の安定を確保し、マネーロンダリングや偽造通貨と闘うことを目的としている。

EUは、同規則がセルビア人コソボ住民がセルビアから受けている財政支援にも影響を及ぼすことに留意する。この決定は、セルビア人コソヴォ住民をはじめとするコソボ全土のコミュニティの日常生活、特に学校や病院への影響についての事前協議が行われていないため、現時点では代替案がないことが明らかであることから、EUはその影響を懸念している。

規則施行までの移行期間が短いことと、影響を受けるすべてのコミュニティに対する情報や実際的な解決策が不足していることが相まって、彼らの生活を深刻に複雑化させる危険がある。

EUはコソヴォに対し、十分に長い移行期間を確保し、EUが促進する対話の枠組みにおいてこの問題の交渉による解決策を見出すよう求める

出典:EEASウェブサイト

またスタノ報道官は、コソヴォ警察による一連のセルビア系機関閉鎖について、2月4日に次のとおり声明を発表した。

欧州連合(EU)は、ドラガシュ/ドラガシュ、ペヤ/ペチ、イストグ/イストク、クリナ/クリナの各自治体に所在するセルビアが運営する機関の事務所及びプリシュティナに所在するNGO「平和寛容センター」の施設に対して行われたコソヴォ警察の特別作戦を大きな懸念をもって留意している。

セルビア人コソヴォ住民にとって現時点で代替手段がないことが明らかである以上、 基本的な社会サービスへのアクセスが制限されることになるため、これら事務所の突然の閉鎖は、セルビア人住民の日常生活や生活環境に悪影響を及ぼす。

これらの組織の地位は、セルビア系自治体連合/共同体の設立に関連し、EUが促進するセルビア・コソヴォ間対話の中で解決されることが期待されている。

したがって、EUはコソヴォに対し、緊張を高めかねない一方的な行動を避け、EUが促進する対話を通じてこれらの問題に対処するよう求める。

出典:EEASウェブサイト

これらの批判に対し、コソヴォ政府関係者からは反発する姿勢も見られている。

クルティ(Albin Kurti)コソヴォ首相の政務補佐官を務めるズルファイ(Jeton Zulfaj)氏は、自身のX(旧Twitter)アカウントの投稿において、スタノEU報道官の声明を引用しつつ、「ペータル、我々が生きている時代もブリュッセル対話が対象としている時代についても混乱しないように。セルビア人が運営する機関は1999年に民族浄化と大量虐殺を行い、何百人もの虐殺を行い、1,133人の子どもを含む何千人もの市民を殺害した後、セルビア軍とともに逃げ去ったのだ」と述べ、EUの批判に反論した。

同じくクルティ首相の補佐官を務めるシナニ(Ardita Sinani)氏は自身のFacebookアカウントでの投稿で、「EUはコソヴォに大使セルビア系並行機関の閉鎖を止めるよう要求する一方で、(アルバニア人が多数派を占める)セルビア南部の状況については何も行動を起こそうとしない」と述べて、EUを批判している。

コソヴォ政府と与党が欧米の批判に反発する姿勢を示す一方で、コソヴォ野党は、米国をはじめとする欧米との協調姿勢を維持するよう求める声が挙がっている。コソヴォ将来同盟(AAK)のタヒリ(Besnik Tahiri)院内総務は、「政府は米国との関係についての実験を止めるべきだ」との述べた。また、コソヴォ民主同盟(LDK)のハジリ(Lufti Haziri)副党首は、「新規則の施行は憲法上の義務ではあるが、それは米国との協調の下でなされるべきだ」と述べた。

(アイキャッチ画像出典:Shutterstock)

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