
フィッチ、セルビア格付けを「BB+」に据え置き-政治不安が経済見通しに影
7月25日、大手格付け会社のフィッチ(Fitch Ratings)は、セルビアの長期外貨建て発行体デフォルト格付(IDR)を「BB+」に据え置き、見通し(アウトルック)は「ポジティブ」を維持すると発表した。これは投資適格級まであと一歩の水準となる。
フィッチのプレスリリースによれば、フィッチはセルビアの格付けを支える要因として、慎重な財政運営や強化された外貨準備高といった健全な政策ミックス、そして「未来への飛躍-セルビア・エキスポ2027(Leap into the Future – Serbia Expo 2027)」計画に下支えされた投資主導の堅実な経済成長を挙げている。政府債務の継続的な削減や、近年のインフレショックに対する適切な管理も評価された。
しかし、見通しが「ポジティブ」である一方で、国内の政治情勢が経済に対するリスク要因となっていることが強調された。2024年11月にノヴィ・サド(Novi Sad)で発生した鉄道駅の屋根崩落事故を契機とする学生主導の抗議活動が続いており、2025年6月末には警察との衝突に発展するなど激化している。この政治的混乱は、1月のヴチェヴィッチ(Miloš Vučević)首相の辞任と、4月のマツット(Duro Macut)首相を首班とする新内閣の発足につながった。フィッチは、この国内の政治的不確実性の高まりが経済見通しにリスクをもたらし、既に2025年初頭には外貨準備への圧力として表れたと指摘している。ヴチッチ(Aleksandar Vučić)大統領は解散総選挙の可能性も示唆しており、セルビアの政局の先行きは不透明なままとなっている。
こうした状況を受け、フィッチはセルビアの2025年の実質GDP成長率予測を、1月時点の4.2%から3.0%へと下方修正した。予想を下回る経済指標に加え、国内政治と世界貿易を巡る不確実性が主な理由とされている。ただし、大規模な公共・民間投資が見込まれることから、成長率は2026年に3.7%、2027年には4.2%へと加速するとフィッチは予測している。
財政面では、経済成長見通しの軟化を背景に、財政赤字の対GDP比が2024年の2.0%から2025年には3.0%に拡大すると見込まれている。他方、政府債務残高の対GDP比は2024年の47.5%から緩やかに減少し、2027年には46.1%になると予測されている。また、対外面では、投資主導の輸入増により経常収支赤字が拡大し、海外からの直接投資(FDI)の流入が減少していることも懸念材料として挙げられている。
フィッチは、今後の格上げの条件として、国内の政治的不安定が経済成長やマクロ経済の安定を損なわないという信頼感の高まりや、欧州連合(EU)加盟交渉を円滑にするようなガバナンスの改善を挙げた。逆に、政治不安の長期化によるマクロ経済の不安定化や政府債務の増加は、格下げにつながる可能性があるとしている。
なお、別の格付け大手であるスタンダード・アンド・プアーズ(S&P Global Ratings)は、2024年10月にセルビアを投資適格級となるBBB-に引き上げており、セルビア政府は当時、フィッチやムーディーズ(Moody’s)も2025年中にS&Pに追随することへの期待を表明していた。
今回フィッチが据え置きを決定したことで、国内の政治的安定が投資適格級への昇格に向けた喫緊の課題であることが改めて浮き彫りとなったと言える。
(アイキャッチ画像出典:Shutterstock)
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