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コソヴォ中央選管、セルビア系最大政党の前倒し議会選出馬を承認せず-欧米諸国はコソヴォ与党を強く非難

12月2日、コソヴォの選挙管理行政を司る中央選挙委員会(Central Elections Commission: CEC)は、12月28日に予定されている議会選挙(総選挙)に向け、コソヴォ北部のセルビア系住民を代表する最大政党「セルビア人リスト(Srpska Lista:SL)」の立候補申請を承認(認証)しないことを決定した。これに対し、米国や欧州連合(EU)などの欧米主要国は、コソヴォ与党による政治的な妨害行為であるとして一斉に強い懸念を表明している。

CECの会合における投票結果は、賛成2票、反対2票、棄権7票となり、承認に必要な票数に達しなかった。反対票を投じたのは、クルティ(Albin Kurti)暫定首相率いる与党「自己決定運動(Vetevendosje: VV)」に所属する委員2名のみであり、他のアルバニア系政党の委員は棄権を選択した。CECのラドニキ(Kreshnik Radoniqi)委員長とセルビア系委員の1名は賛成票を投じている。

この決定を受け、翌3日、在コソヴォ米国大使館はX公式アカウントへの投稿を通じて声明を発表し、VVによるセルビア人リストの承認阻止の試みを「近視眼的であり、分断を招くもの」と厳しく非難した。同大使館は、こうした行動がコソボの安定を損ない、米国とコソボ企業の機会を促進するための戦略対話の再開など、米国の国益をも阻害すると警告している。

同様に、欧州安保協力機構(Organization for Security and Co-Operation in Europe: OSCE)コソボミッションも「深い失望と懸念」を表明し、CEC内での投票行動が法的基準や民主的原則ではなく、党派的な利益によって動機づけられていると指摘した。

駐コソヴォEU事務所、英国のハーグリーブス(Jonathan Hargreaves)駐コソヴォ大使、ドイツのルドルフ(Reiner Rudolph)大使らも相次いで、国際的な選挙基準からの逸脱であり、多民族民主主義としてのコソボの評判を傷つける行為であると批判している。

一方、反対票を投じたVV所属のCEC委員であるクラスニチ(Alban Krasniqi)氏は、欧米諸国の批判に反論する形で自身の行動を正当化した。コソヴォ地元メディアの報道によれば、クラスニキ氏は、SLが2023年9月に北部ズヴェチャン(Zvecan)近郊のバニスカ(Banjska)で発生した武装襲撃事件に関与した疑いがあることや、セルビアのヴチッチ(Aleksandar Vučić)大統領の政権下でコソボ市民を脅迫し、違法な資金運用を行っていると主張し、同党の排除は妥当であるとの立場を崩していない。クルティ首相本人は、この件に関するメディアからのコメント要請を拒否している。

セルビア側の反応も激しい。セルビア政府コソボ・メトヒヤ事務所(Office for Kosovo and Metohija)のプレスリリースによれば、同事務所のペトコヴィッチ(Petar Petkovic)長官は、今回の措置を「クルティ首相による選挙での敗北への恐怖の表れ」と断じた。ペトコヴィッチ氏は、クルティ首相が自身の協力者である「自由・正義・生存(Freedom, Justice, Survival)」党のラシッチ(Nenad Rasic)氏を強引に議会へ送り込もうとしていると批判し、12月28日の選挙ではセルビア人がより強力な団結をもってこれに応じると述べた。

セルビア人リストがCECによって立候補を拒否されるのは、過去1年間で3度目となる。2023年12月の議会選挙申請時および2024年8月の地方選挙申請時にも同様の拒否決定がなされたが、いずれも選挙不服申し立て・抗告パネル(Elections Complaints and Appeals Panel: ECAP)への提訴を経て、最終的に出馬が認められている。

SLのエレク(Zlatan Elek)党首は3日、党本部で緊急記者会見を開き、既にECAPへの異議申し立てを行ったことを明らかにした。エレク党首は、同党がコソヴォ内のセルビア系自治体全10カ所の首長ポストを保持する最強の勢力であることを強調した上で、今回の選挙プロセスにおける有権者名簿の不正操作疑惑についても言及した。具体的には、北ミトロヴィツァ(North Mitrovica)で1,200名以上、レポサヴィッチ(Leposavić)で1,500名以上の有権者が名簿から削除されている一方、グラチャニツァ(Gračanica)では説明なく有権者数が変動していると指摘している。

なお、CECは同日、申請のあった24の政治主体のうち22の参加を承認した。SL以外では、社会民主イニシアティブ(NISMA)が必要な署名リストの不備により保留とされたが、期限内の修正が認められている。SLについては、過去の事例と同様にECAPの裁定によって最終的な出馬の可否が決定される見通しとなっている。

(アイキャッチ画像出典:Shutterstock)

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