
セルビア、2026年12月までに大統領選挙及び議会選挙の前倒し実施の可能性-ヴチッチ大統領が表明
10月5日、セルビアのヴチッチ(Aleksandar Vučić)大統領は、国内テレビ局のインタビューに応じ、本来2027年に予定されている大統領選挙と議会総選挙を、2026年12月に前倒しで同時に実施する可能性があるとの考えを示した。
5日夜に国内放送局Pink TVの番組に出演したヴチッチ大統領は、自身の2期目の任期が2027年5月に満了することに触れつつ、「私の任期はあと1年半残っているが、おそらく短くなるだろう。大統領選挙と議会選挙を同時に実施することになると思う。想定では2026年12月か、それより少し早まるかもしれない」と述べた。
また、現行憲法で大統領ポストへの3選が禁止されていることから、ヴチッチ大統領は自身の再出馬を否定し、「我々は憲法を改正するつもりはない」と強調した。現議会の任期満了に伴う通常議会総選挙は、2027年末までに実施される予定となっている。
ヴチッチ大統領の発言は、野党セルビア中道(Serbia Centre, SRCE)のポノシュ(Zdravko Ponos)党首の声明について問われた際になされた。ポノシュ氏は、ヴチッチ政権を、2000年10月5日の大規模デモによるミロシェヴィッチ(Slobodan Milosevic)政権崩壊後の「未完の仕事」の結果であると示唆していた。
セルビアでは、2024年11月1日にノヴィ・サド市の駅でコンクリート製の屋根が崩落し16人が死亡した事故以降、政治的混乱が続いている。この事故をきっかけに、学生が主導する大規模な反政府デモが全国に拡大した。デモ参加者は事故の責任追及を求めるとともに、ヴチッチ政権と与党セルビア進歩党(Serbian Progressive Party, SNS)が国家機関を支配し、メディアや野党を弾圧し、犯罪組織と繋がりがあると非難し、早期の総選挙実施を要求してきた。
これに対しヴチッチ大統領は、デモが外国から資金提供を受けていると繰り返し主張している。「この11ヶ月間、教育、医療、検察、司法、警察といった全ての国家機関が攻撃され、破壊された」と述べ、デモが国家の価値を脅かしているとの見解を示している。
一連の抗議活動は政局にも影響を及ぼし、2025年1月には当時のヴチェヴィッチ(Miloš Vucevic)首相が辞任し、マツット(Djuro Macut)氏を首班とする新内閣が4月に発足したが、主要閣僚の多くは留任した。SNSは現在、議会(定数250)で112議席を占め、連立パートナーであるセルビア社会党(Socialist Party of Serbia, SPS)などの支持を得て、過半数を確保している。
政府は、大規模デモが継続する中で、物価高騰対策や賃金引き上げなどの経済政策を相次いで打ち出してきており、これらは前倒し選挙を見据えた選挙対策の側面もあるのではないかと見られている。
ヴチッチ大統領はインタビューの最後に、米国によるセルビア石油産業(Naftna Industrija Srbija)への制裁や緊迫する国際情勢に触れ、「我々全員に困難な時期が待ち受けている。我々がすべきことは団結して平和を維持することだ」と国民に呼びかけた。今回示された選挙の前倒しは、こうした国内外の課題を背景に、続く国内の政治的緊張の打開を図る狙いがあると見られる。
(アイキャッチ画像出典:Shutterstock)
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