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米国政府がコソヴォとの戦略対話を無期限停止-クルティ政権の行動を非難

9月12日、米国政府はコソヴォとの間で予定されていた「戦略対話(Strategic Dialogue)」を無期限に停止すると発表した。在コソヴォ米国大使館は、この決定の理由について、クルティ(Albin Kurti)暫定首相が率いるコソヴォ政府の最近の行動や声明が「緊張と不安定さを増大させ、米国がコソヴォと共通の優先事項について生産的に協力する能力を制約している」ためだと説明した。

かつてない米国の厳しい姿勢とコソヴォ社会への衝撃

米国大使館の声明は、「我々とコソヴォとの関係は、相互の経済的繁栄の基礎としての平和と安定を強化するという共通の目標に基づいている」と前置きしつつ、「残念ながら、クルティ暫定首相の最近の行動と声明は、長年にわたって築かれてきた進展への挑戦となっている」と強い懸念を表明した。

米国は、コソヴォ暫定政権の行動が緊張と不安定さを増大させており、コソヴォとの共同の優先課題について生産的に協力するための米国の能力を制約しているという懸念から、計画されていた戦略対話を無期限に停止した。

米国は、米国とコソヴォ国民が共有する共同の利益を推進する決意を堅持している。米国とコソヴォの関係は共通の目標、すなわち相互の経済的繁栄の基盤としての平和と安定の強化に基づいている。残念ながら、クルティ暫定首相による最近の行動と発言は、長年にわたり積み重ねてきた進展に対する挑戦をもたらしている

戦略対話は米国とコソヴォの人々の利益のため経済的・外交的関係を強化することを目的としている。米国は適切な時期にこうした取り組みを再開することを望んでおり、またこれがコソヴォの人々にとっての優先目標であることを認識している。

出典:在コソヴォ米国大使館プレスリリース

米国側は具体的にどの行動を問題視しているかは明言していないが、この発表の数時間前には、プラティパティ(Anu Prattipati)在コソヴォ米国臨時代理大使が、クルティ首相の動きが「不安定さと不確実性を増大させた」と批判していた。また、クルティ首相は最近、議会の膠着状態に関する憲法裁判所の判断を不服として、同裁判所を「野党の影」だと非難するなど、対立的な姿勢を見せていた。

戦略対話とは、米国が特定のパートナー国との二国間関係を深化させるために行うハイレベルな協議の枠組みであり、防衛、安全保障、経済、エネルギーなど多岐にわたる分野が対象となる。今年1月に米国との戦略対話開始が決定された際、コソヴォのオスマニ(Vjosa Osmani)大統領が「並外れた成果」と歓迎していたものであり、その停止は極めて厳しい外交措置と見なされている。

過去に米国がこの対話を停止した例としては、二国間関係が悪化した際のパキスタンなどがあり、異例の事態であると言える。今回の決定は、米国がセルビアとの間で本年末までに初の戦略対話を開催する方向で調整している中で発表されており、コソヴォの外交的孤立を一層際立たせるものとなっている。

この米国の決定はコソヴォ政界に大きな衝撃を与えた。オスマニ大統領は深い遺憾と懸念を表明し、「米国との同盟は、コソヴォにとって外交関係だけでなく、国家としてのアイデンティティの実存的な要素である」と述べ、対話の早期再開に向けて最大限の努力を払うと強調した。

一方で、クルティ首相の報道官であるクリエジウ(Përparim Kryeziu)氏は、政府の行動は「不安定さを排除し、持続可能で長期的な安定を保証するため」であったと正当性を主張し、米国への直接的な批判は避けつつも、「具体的な批判は歓迎し、改善に最大限努める」と述べた。

野党からは政権に対する激しい非難が噴出した。野党第一党であるコソヴォ民主同盟(LDK)のアブディジク(Lumir Abdixhiku)党首は、「コソヴォにとって最も重要な戦略的かつ実存的な同盟国との関係において、コソヴォは過去最低の地点に達した」と断じ、「この政治的狂気を終わらせる時だ」と訴えた。コソヴォ民主党(PDK)は「過去25年間で最大の政治的、外交的、戦略的損害」と位置づけ、コソヴォ将来同盟(AAK)党首であるハラディナイ(Ramush Haradinaj)元首相は「我々はコソヴォの歴史上、最も暗い日々を経験している」と危機感を露わにした。

専門家からも厳しい見方が出ており、社会学者のファディル・マロク(Fadil Maloku)氏はこの決定を、コソヴォの国家建設の設計者である米国からの「平手打ちであり、警報だ」と表現し、新たな正統性の危機につながる可能性を指摘した。

並行して進むセルビア系住民への圧力強化

米国の発表と時を同じくして、コソヴォ当局はセルビア系住民の生活に直接影響を与える複数の措置を発表・推進しており、これらが緊張を高める一因となっている。

9月12日、コソヴォ警察は、セルビア中央政府が発行したナンバープレートを付けた車両を、所有者以外の者が委任状で運転することを厳しく取り締まる方針を発表した。11月1日から適用されるこの措置では、違反者には最大270ユーロの罰金が科される。セルビア語の都市名が記されたナンバープレートが禁止されて以降、多くのセルビア系住民がこの方法で車両を使用してきたため、生活に大きな支障が出ることが懸念される。これに対し、コソヴォのセルビア系政治団体の一つであるセルビア人民運動(SNP)はコソヴォ政府や国際社会に対し、これらの車両の再登録を可能にする特別な制度を設けるよう求める公開書簡を発表した。

さらにコソヴォ当局は、コソヴォの身分証明書を持たない市民(主にセルビア中央政府発行の身分証を持つセルビア系住民)に対し、コソヴォ入国後3日以内に警察署に届け出て一時滞在許可を取得することを義務付ける新たな方針の広報キャンペーンを開始した。この法律が本格的に施行されれば、許可なく滞在する者には罰金に加え、国外退去や一定期間の入国禁止といった措置が取られる可能性がある。

これらの措置は、ブリュッセルで行われたセルビア・コソヴォ間の実務レベル対話が、7時間以上にも及んだものの進展なく終わった直後に発表された。

また同日には、北ミトロヴィツァにあるセルビア年金・障害者保険基金の事務所にコソヴォ側の地方政府査察官が警察官を同伴しながら立ち入り、建物に掲げられていたセルビア国旗が撤去される事案も発生している。

一連の措置に対し、北ミトロヴィツァのセルビア系住民からは強い反発と不安の声が上がっている。特にセルビア系の医療・教育機関のコソヴォ制度への統合については、「セルビア人の生存のためのレッドラインだ」として断固反対する意見が聞かれた。同時に、これらの重要な問題に対してセルビア本国政府が公式な反応を示していないことへの不満や諦めの声も広がっている。

コソヴォのクルティ政権は、2022年以降、セルビア政府発行車両ナンバープレートの使用禁止、コソヴォ北部におけるセルビア系行政機関や金融機関の強制的な閉鎖、セルビア通貨ディナールの使用禁止、セルビア人住民が所有する土地の強制収用といった、コソヴォ北部のセルビア系住民に対する圧力を強める措置を次々と行ってきている。

これらの措置は、コソヴォのセルビアからの独立を支援してきた欧米諸国との協調無しに一方的に強行されており、米国やEUは、クルティ政権に対する懸念や批判を繰り返し表明してきている。一方的な行動を繰り返すクルティ政権に対し、EUは2023年6月以来、コソヴォに対する一部経済援助の停止やEU及びEU加盟国とコソヴォの要人往来の制限といった措置を導入しており、コソヴォ側はこれを事実上の制裁措置と見なしている。

しかし、クルティ政権はこうした欧米からの批判を事実上無視し続けてきており、最近も、コソヴォ訪問中のセルビア政府高官を拘束する、10月に予定されているコソヴォ地方選挙へのセルビア系主要政党の参加を認めない、セルビア系住民が強く反対する南北ミトロヴィツァを結ぶ橋の開通を強行するなどの一方的な行動を見せている。

クルティ政権下において、コソヴォと欧米との関係は大きく変化してきている。特に、1999年のNATOによる対ユーゴ空爆を主導し、また2008年の一方的独立宣言とその後のコソヴォ独立承認国の拡大を支援し続けてきた米国は、コソヴォにとって名実ともに最大の後見役となってきたが、それだけに、戦略対話の無期限停止という今回の米国の措置はコソヴォにとって大きな打撃であり、コソヴォの外交や内政のみならず、停滞しているセルビアとの関係正常化対話や、西バルカン地域全体の情勢に与える影響も無視できない。

(アイキャッチ画像出典:Shutterstock)

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