
欧州議会がセルビアのデモ弾圧に関して討議-EPPは与党SNSの会員資格を精査へ
9月9日、フランスのストラスブール(Strasbourg)で開催された欧州議会本会議において、セルビアにおける反政府デモ参加者への「暴力の波と継続的な武力行使」に関する討論会が開かれた。
欧州委員会および欧州議会議員から、セルビア政府によるデモ参加者への過剰な武力行使を非難する声が相次ぎ、欧州議会最大の会派である欧州人民党(European People’s Party, EPP)は、ヴチッチ(Aleksandar Vučić)大統領率いるセルビア進歩党(Serbian Progressive Party, SNS)のEPP準会員資格について精査を開始すると発表した。
欧州議会における会合開催の経緯
今回の会合は、セルビアで10か月にわたり続く反政府デモに対する当局の対応を問題視する左派会派の「欧州緑のグループ・欧州自由連盟(Greens/EFA)」が主導して開催された。
デモの直接的なきっかけは、2024年11月にセルビア第二の都市ノヴィ・サド(Novi Sad)で、改修直後の駅のコンクリート製天蓋が崩落し16名が死亡した事故であったが、この事故以降、政府の汚職や怠慢を訴える抗議活動が続いており、ヴチッチ大統領の辞任を求める声も上がっている。
特に、9月5日にノヴィ・サドで行われた学生主導のデモでは、警察による厳しい弾圧が行われ、機動隊とデモ隊が衝突した。セルビア国内メディアやソーシャルメディアでは、機動隊が無抵抗の市民を殴打したり、催涙ガスや催涙スプレーを広範囲に使用したりする様子が報じられ、国際的な批判が高まっていた。デモ参加者は、警察による暴力、過剰な武力行使、野党活動家へのセクシャルハラスメントなどを訴えている。
拡大担当欧州委員はセルビアを批判
討論会に出席した欧州委員会のコス(Marta Kos)拡大担当欧州委員は、セルビア政府の姿勢に厳しい見方を示した。コス委員は、セルビアの政治家によるEU加盟国への「軽蔑的な発言」は「EUが候補国に期待するものではない」と述べ、セルビアのEU加盟へのコミットメントの誠実さに対する信頼が薄れていると警告した。
さらに、ヴチッチ大統領が「EUに対する批判的な発言を伴いながら、モスクワや北京での軍事パレードに参加している」ことを問題視した。セルビアのEU加盟交渉は2014年に開始されたものの、現在は交渉が停滞している。コス委員の発言は、セルビアの現状がEU加盟への道をさらに遠のかせるものであるとの欧州委員会の懸念を反映している。
EPPはSNSの準会員資格を精査する意向を表明
今回のデモ弾圧は、ヴチッチ大統領が実質的に率いるセルビア政権与党であるセルビア進歩党(SNS)が準会員(Associated member)として所属するEPP内にも大きな波紋を広げている。
9日、EPPのヴェーバー(Manfred Weber)党首は、SNSの準会員資格について「精査プロセスを開始する」と正式に発表した。ヴェーバー氏は、「EPPはセルビアで起きていることに目をつぶっているわけではない」と述べ、今後数日以内に作業部会を設置して調査を行うとした。
SNSは2016年からEPPの準会員となっているが、その非民主的な手法をEPPが正当化しているとの専門家からの警告は以前から存在していた。EPP内部からも批判の声が上がっており、クロアチア出身のスティエル(Davor Ivo Stier)議員は、「セルビアの分極化は進み、暴力と弾圧のレベルは増加している。我々はこれを明確に非難する」と述べ、EPPがSNSとの関係について適切な決定を下すだろうとの見方を示した。
EPP内でSNSの立場が問題視される背景には、デモへの対応だけでなく、ヴチッチ政権の親ロシア的な姿勢もある。セルビアはウクライナ侵攻後もEUの対ロシア制裁に加わらず、緊密な関係を維持している。特に、ヴチッチ大統領が今年5月9日にモスクワで行われた戦勝記念日の軍事パレードに出席したことは、ブリュッセルで大きな波紋を呼んだ。
一方で、EPP内にはヴチッチ大統領との対話チャネルを維持すべきだという意見も存在し、SNSの準会員資格を維持することがそれに貢献すると考える向きもある。SNSの会員資格をめぐる議論は、EPPの今後の対セルビア政策を占う上で重要な焦点となる。
(アイキャッチ画像出典:Shutterstock)
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