
セルビアで反政府デモ激化-政権側支持者らと衝突し負傷者多数
8月13日、セルビア各地で大規模な反政府デモが行われ、デモ隊が与党支持者や治安部隊と衝突し、多数の負傷者が出る事態となった。2024年11月に発生した鉄道駅での崩落事故を発端とする学生主導の抗議活動は激化の一途をたどり、政府とデモ隊の非難合戦で対立は深刻化している。
抗議デモは首都ベオグラード(Beograd)や第2の都市ノヴィ・サド(Novi Sad)をはじめ、ニシュ(Niš)、クラグイェヴァツ(Kragujevac)など全国数十都市で開催された。これは、前日の12日に北西部のヴルバス(Vrbas)で発生した衝突でデモ参加者が負傷したことを受け、学生団体が呼びかけたものである。各地でデモ隊は与党セルビア進歩党(Srpska napredna stranka, SNS)の事務所へ向かおうとし、事前に集まっていた同党支持者や警官隊と衝突した。
特にノヴィ・サドでの衝突は最も激しく、SNS支持者がデモ隊に向けて花火を発射。さらに、私服姿の男性が空に向けて拳銃を発砲する映像がSNSで拡散し、大きな衝撃を与えた。軍保安庁は14日、この男性が要人警護を担当する軍の特殊部隊「コブラ」所属のブルクシャニン(Vladimir Brkusanin)隊員であると特定した。軍によると、この衝突でコブラの隊員7名が負傷、うち4名は重傷を負ったとされている。ブルクシャニン隊員は記者会見で、約100人のデモ隊に囲まれ生命の危険を感じたため、威嚇のために発砲したと説明した。
ヴチッチ(Aleksandar Vučić)大統領は13日夜、「壊滅的なシナリオは回避された」と述べ、騒乱は外国勢力によって計画されたものだと主張した。ヴチッチ大統領は以前から、デモは政権転覆が目的で外国から資金提供を受けていると繰り返し非難している。
ダチッチ(Ivica Dačić)内務大臣も「国家への攻撃だ」とデモ隊を厳しく批判し、「警察は最小限の力で対応した」と述べ、攻撃者を48時間拘束する方針を示した。また、大統領の弟であるアンドレイ・ヴチッチ(Andrej Vučić)氏が、デモ参加者を第二次大戦中のクロアチアのファシスト組織になぞらえた蔑称である「ウスタシャ」と罵る映像も報じられており、政権側の強硬な姿勢が鮮明になっている。
一方、デモを主催する学生団体は「政権が衝突を通じて内戦を誘発しようとしている」と強く反発している。「警察は、デモ参加者に石を投げたり花火を発射したりした政権支持者を再び保護した」と主張し、政権と警察を非難した。SNS上では、警察官が女性を含む市民を突き飛ばしたり、地面に倒れた参加者を殴ったりする映像や写真が多数拡散されている。ニシュでは、学生1名が機動隊に激しく殴打され拘束される映像も公開されており、ダチッチ内相の「最小限の対応」という説明との食い違いが指摘されている。
一連の抗議活動は、2024年11月1日にノヴィ・サド中央駅で16名が死亡した天蓋崩落事故をきっかけに始まった。政府内の汚職が事故の原因であるという不信感が根底にあり、当初は非政治的とされた活動は、2025年5月以降、早期の議会選挙を求める明確な政治的要求へと発展した。学生団体はSNSで「賢い者は諦めない、賢い者は組織する!選挙をしろ、臆病者!」と政権を挑発しており、2027年に予定されている通常選挙を待たずして、政治的緊張はさらに高まる可能性がある。
(アイキャッチ画像出典:Shutterstock)
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