EU理事会が西バルカンのEU拡大に関する結論文書を採択:セルビアのクラスター3交渉開始は先送りに

12月17日、EU一般理事会は、2024年版のEU拡大に関する結論文書を採択した。西バルカン各国に関する主な内容は次のとおりとなっている。

EU理事会は最近、モンテネグロとアルバニアについて、新たな政策分野(チャプター)についての交渉開始や完了を認めるなど加盟交渉の実質的な進展に合意したが、セルビアについては、予てより議論されていたクラスター3の交渉開始は見送られる形となった。

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モンテネグロ

モンテネグロは西バルカン諸国の中で最も加盟プロセスが進んでおり、33政策分野(チャプター)の交渉を開始し、うち6つを暫定的に終了している。特に法の支配に関するチャプター23及び24で重要な進展を見せており、これは加盟交渉の最終段階への移行を示す重要な節目となっている。EUは、モンテネグロが改革の進展を維持し必要な要件を満たせば、加盟条約の起草準備に着手する用意があるとしている

理事会は、モンテネグロが着実に改革を進めることを条件に、適切な時期に加盟条約の起草準備を開始する用意があると表明した。

今後の課題としては、表現と報道の自由、ジャーナリストの保護、汚職や組織犯罪との戦い、行政改革などの重要分野での改革継続が挙げられている。

セルビア

セルビアにとってEU加盟が戦略的目標であることを再確認したものの、EU関連の改革実施においてセルビアは強い政治的意志と一貫性を示す必要性があると強調された。

理事会は、セルビアがEU加盟交渉におけるクラスター3(競争力と包括的成長)の交渉開始に必要な技術的水準を維持していることを認めたが、EUが求める分野でのさらなる実質的な改革進展を基にクラスター3の交渉開始を検討するとしており、特に法の支配分野での改革進展とコソヴォとの関係正常化が交渉の全体的なペースを決定すると指摘している。

理事会は、セルビアにおける表現の自由とメディアの独立性の改善の欠如に懸念を表明し、メディア法制の実施とEU規範への更なる整合を求めている。また、ロシアとベラルーシに対するEU共通外交安全保障政策(CFSP)への完全な整合を、セルビアに対する最優先事項として求めている。

アルバニア

理事会は、アルバニア政府のEU加盟への意欲を評価しつつ、さらなるクラスターの交渉開始に向けて前向きな姿勢を示している。

しかし、アルバニア国内での政治的な分極化が議会活動に影響を与えていることが指摘されており、EU関連の改革の進展には包括的で建設的な政治対話が不可欠であるとしている。

また、その他の懸念事項として、基本的人権の保護強化、特にメディアの自由と表現の自由、少数民族の権利保護の分野での進展が見られないことが挙げられている。

北マケドニア

理事会は、北マケドニアに対する最優先事項として、ブルガリア系少数民族の地位を明記する憲法改正の完了を求めており、北マケドニアが憲法改正に関するコミットメントを実施次第、遅滞なく追加の政治的決定なしにEU加盟交渉を進展させるための政府間会議を開催する用意があると再確認している。

また、欧州共通価値規範や法の支配の分野での改革実施の加速が必要とされている。一方で、移民管理における継続的な良好な協力、機能的な市場経済の発展、外交政策問題における一貫した協力を理事会は評価している。

ボスニア・ヘルツェゴヴィナ

2024年3月に加盟交渉開始が決定されたものの、その後改革の勢いが停滞している。

国内の政治アクターに対し、EU加盟に向けた取り組みに焦点を当て、必要な改革を実施するための断固とした行動、特に憲法改革、司法改革、選挙改革の実施を求めている。

また、民族間の分断的なレトリックや戦争犯罪者の美化を止めることも要請されている。

セルビア人主体のスルプスカ共和国がロシアのウクライナ侵攻に対して中立的立場を取っていることへの懸念も示されている。

コソヴォ

コソヴォは2022年12月にEU加盟を申請したが、組織犯罪対策では進展が見られるものの、汚職対策と基本的権利の保護では限定的な進展にとどまっている

また、セルビア人が多数派を占めるコソヴォ北部における緊張緩和に向けた措置と、セルビア系住民の司法・警察機関への再統合が求められており、現在EUがコソヴォに課している制限措置について、そうした取り組みが進展し次第、EUは解除する用意があるとしている。

(アイキャッチ画像出典:Shutterstock)

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