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世界銀行、西バルカン地域の2025年成長率を3.0%に下方修正-国別に明暗分かれる

10月7日、世界銀行(World Bank)は最新の「西バルカン定期経済報告書(Western Balkans Regular Economic Report)」を発表した。同報告書によれば、西バルカン6カ国全体の2025年における実質GDP成長率予測を3.0%とし、2024年の3.6%から減速するとの見通しが示されている。この減速は、依然として弱い外部環境に加え、いくつかの国で国内の圧力が強まっていることが複合的に影響した結果だとされている。

地域全体としては減速するものの、この成長率は欧州連合(European Union, EU)の成長率を上回っており、先進国との生活水準の収斂は緩やかながらも継続している。インフレは一旦沈静化した後、食料品価格や公共料金の値上がりを主因に再び上昇基調に転じている。経済の下振れリスクとして、各国の国内政治情勢や世界的な貿易・投資の不確実性の継続が挙げられる一方、EU加盟交渉の進展や改革努力が成長を後押しする可能性も指摘されている。

世銀によれば、西バルカンにおけるパンデミック後の力強い景気回復は、労働者一人当たりの生産性向上よりも就業者数の増加によって牽引されてきた側面があり、労働生産性の伸びは遅れているとされている。また、持続的な成長のためには生産性の向上がより大きな役割を果たす必要があり、そのためには知識集約型・技術集約型の生産形態への移行が不可欠だと指摘している。

質の高い雇用創出がEU水準へのキャッチアップの鍵

同報告書は、西バルカン地域がEUとの間での生活水準の格差をより迅速に是正していく上での構造的課題として、労働市場の問題を大きく取り上げている。労働者の教育水準は向上しているにもかかわらず、労働市場は依然として低・中程度の生産性の企業における、手作業や定型業務を中心とした低技能職が支配的であるというミスマッチが生じている。

この結果、高等教育を受けた労働者の多くが、それ以下の学歴で就ける職に就かざるを得ず、自身の学歴に見合った職に就いている他国の労働者よりも15〜30%低い賃金に甘んじている。これは個人の潜在的な収入を抑制するだけでなく、地域全体の成長を加速させるはずの人的資本の非効率な活用に繋がっていると世銀は指摘している。

さらに、西バルカン地域は10%を超える高い失業率と、特に女性、若者、高齢者で55%を下回る低い労働参加率が続く一方で、人手不足も深刻化するという「労働市場のパラドックス」に直面している。現在の人口動態と労働市場の傾向が続けば、今後5年間で約19万人以上の労働力が不足すると世銀は予測している。

世銀は、西バルカン各国政府が質の高い雇用を創出するために、雇用のための基盤インフラの整備、ガバナンスの強化と予測可能な規制環境の構築、そして民間セクター拡大のための民間資本の動員に協調して取り組む必要があると提言している。

西バルカン各国 実質GDP成長率予測(2025年)

国名2025年成長率予測 (%)2025年6月予測からの変化 (pp)
アルバニア3.7+0.5
ボスニア・ヘルツェゴヴィナ2.6-0.1
コソヴォ3.80.0
モンテネグロ3.3+0.1
北マケドニア3.1+0.5
セルビア2.8-0.7
西バルカン6カ国平均3.0-0.2
出典:World Bank

各国経済見通し

セルビア

地域最大の経済規模を持つセルビアは、2025年の経済成長率予測が6月時点の3.5%から2.8%へと大幅に下方修正された。2024年の好調な成長から一転し、世界的な不確実性や国内の政治不安を背景とした民間投資および対内直接投資(FDI)の流入減少により、経済は勢いを失っている。特に2025年上半期は、建設活動の急減速や農業部門の不振により、成長率は推定2%まで鈍化した。

世銀は、セルビアが中所得国の罠を脱するためには、生産性を高め、国内企業がEUのバリューチェーンに統合できるようなイノベーション主導型経済への転換が必要だと指摘している。インフレ率は高止まりし、財政赤字は大規模な公共インフラ投資計画により対GDP比3%程度まで拡大する見込みである。

ボスニア・ヘルツェゴヴィナ

ボスニア・ヘルツェゴヴィナの2025年成長率予測は、6月予測から0.1パーセンテージポイント(pp)引き下げられ、2.6%となった。2025年第1四半期のGDP成長率は前年同期の3%から1.7%に減速しており、特に製造業を中心とした鉱工業生産の低迷が響いている。

世銀のボスニア担当マネージャーは、「政治的不安定が改革を遅らせ、物価上昇や世界的な不確実性といった現実的な課題に直面している」と述べ、持続的な成長には投資の強化、質の高い雇用の創出、そしてEU統合に向けた着実な改革が不可欠だと強調した。

北マケドニア

北マケドニアの2025年成長率予測は3.1%と、6月予測から0.5pp上方修正された。2026年と2027年も平均約3%の成長が続くと見込まれている。EU加盟交渉の進展が加速し、「成長・改革計画」の下での構造改革への取り組みが強化されることが、ベースラインシナリオとして想定されている。

一方で、投資の伸び悩みや主要貿易相手国の景気減速がリスク要因として挙げられている。インフレ率は2024年の3.4%から2025年には3.8%へと加速する見通しで、エネルギー価格から食料品価格へと波及したコスト上昇圧力が根強いことが課題となっている。

モンテネグロ

モンテネグロの2025年経済成長率予測は3.3%と、6月予測から0.1pp引き上げられた。2025年から2027年にかけては、実質賃金の上昇に伴う個人消費や、インフラ・再生可能エネルギーへの継続的な投資に支えられ、年平均3.2%の成長が見込まれている。小規模な開放経済であるため、観光収入への高い依存度から外部からの衝撃に脆弱であり、経常収支赤字は高水準で推移すると予測される。近年、単一ユーロ決済圏(Single Euro Payments Area; SEPA)に加盟したことは、金融統合の深化や取引コストの削減、投資家の信頼感向上に繋がると期待されている。

アルバニア

アルバニアの2025年GDP成長率予測は3.7%と、6月時点から0.5ppの上方修正となった。雇用の増加、低いインフレ率、公的債務の減少といった良好なマクロ経済環境を背景に、改革の実行が経済成長を支えると期待されている。世銀のモンテネグロ担当マネージャーは、優先課題として財政の安定、グリーン開発、社会保障の改善、デジタルサービスの向上、そして地域やEU市場との連携強化を挙げている。

コソヴォ

コソヴォの2025年成長率予測は3.8%で、6月時点の予測から据え置かれた。慎重な財政運営がマクロ経済の安定に寄与していると評価されている。しかし、近年の経済成長にもかかわらず、一人当たり所得は依然としてEU平均の15%に留まっており、成長が十分な雇用創出に結びついていないことが課題として指摘されている。

(アイキャッチ画像出典:Shutterstock)

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