
イタチごっこの果てに:深まる弾圧と選挙要求の狭間で揺れるセルビア
- はじめに:悲劇から生まれた抵抗のうねり
- 黙祷から政治的要求へ:セルビアを席巻する「学生達の反乱」の軌跡
- 鉄拳とスパイウェア:ヴチッチ政権による弾圧の多様化とエスカレーション
- されど一枚岩にはなれず:野党間の不和と学生との間の深い溝
- 今後の展望:時間稼ぎの果ての不確実な選挙
1.はじめに:悲劇から生まれた抵抗のうねり
2024年11月1日、セルビア北部の主要都市ノヴィ・サド(Novi Sad)で起きた鉄道駅の天蓋崩落事故は、単なる痛ましい悲劇にとどまらなかった 。最終的に16人の命を奪ったこの大惨事は、アレクサンダル・ヴチッチ(Aleksandar Vučić)大統領率いる政権下で蔓延するとされる汚職、怠慢、そして情報の不透明性に対する国民の積年の不満に火をつけた 。当初は追悼の意を示す静かな集会から始まった市民の動きは、政府の不誠実な対応と強硬な弾圧姿勢に直面する中で、学生を中心とした全国的な反政府抗議運動へと発展した 。2012年にヴチッチ大統領のセルビア進歩党が政権を握って以来、最も持続的かつ強力な挑戦となっているこの運動は、政権による弾圧の激化と市民の抵抗の先鋭化という「イタチごっこ」の様相を呈しており、セルビアは重大な岐路に立たされている 。
本稿では、この抗議運動の端緒となったノヴィ・サドの悲劇から、現在に至るまでの運動の展開、特に学生たちが早期総選挙の要求へと舵を切った最近の動きを追う。そして、それに対するヴチッチ政権の多岐にわたる弾圧と政治的圧力、分裂する反政府勢力の現状を詳述し、前倒し選挙の可能性を含む今後のシナリオを考察する。
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