
セルビア中銀、NISとの取引巡り米国から二次制裁の警告を受ける:2025年GDP成長率予測は2.1%に下方修正
11月19日、セルビア中銀(National Bank of Serbia:NBS)のタバコヴィッチ(Jorgovanka Tabaković)総裁は、NBSによる最新のインフレ報告書の発表の場において、ロシア資本傘下にあるセルビア石油産業(Naftna Industrija Srbije: NIS)との取引を継続した場合、NBS自体が米国財務省外国資産管理室(OFAC)による二次制裁の対象となる可能性があるとの警告を受けたことを明らかにした。また、同総裁は2025年のGDP成長率予測を、従来の予測から下方修正し2.1%としたことを発表した。
米国による二次制裁の懸念とNISへの対応
タバコヴィッチ総裁は会見で、「制裁対象の実体(エンティティ)と取引を行う場合、NBSも二次制裁の対象となり得るとの警告を受け取った」と述べ、事態の深刻さを強調したうえで、NBSが二次制裁を受けることの意味について以下のように説明し、強い懸念を表明した。
- 国家の代理人としての機能: NBSはセルビア国家の代理人(agent of the Serbian state)である。
- 決済インフラの要: NBSは国内、国際、清算を含むあらゆる決済システムの運営主体であり、すべての決済業務はNBSを通じて行われている。 したがって、NBSが制裁対象となれば、セルビアの金融システム全体にとって「深刻な脅威」となる。
また、タバコヴィッチ総裁は二次制裁が発動された場合の具体的な詳細情報を入手できていない点にも言及した。その理由として、この警告に関する議論が「最近の米政府機関の一部閉鎖(government shutdown)」の最中に行われたため、OFACの一部しか機能しておらず、詳細な情報を得ることが困難であったという背景を明かした。
タバコヴィッチ総裁は「制裁という言葉自体が良い響きを持つものではない」としつつも、「このシナリオが現実のものとならないことを望んでいる」と述べ、事態の回避に期待を寄せた。
NISはロシアのガスプロム・ネフチが過半数を保有しており、ウクライナ情勢に関連する対露制裁の一環として、すでに米国の制裁対象となっている。10月8日の制裁発効以降、NISのガソリンスタンドではVisaやMastercard等の国際ブランドカードによる決済が停止されており、現在は現金や国内決済カード「Dina」、QRコード決済等が利用されている。NISは現在、所有権構造の変更に向けた交渉を進めているとされる。
経済成長率予測の下方修正
NBSは、2025年のGDP成長率予測を8月時点の2.75%から2.1%へと引き下げた。この修正は、第3四半期の経済活動が予想を下回ったこと(前年同期比2.0%増)を主な要因としている。
- 産業別の動向: 自動車産業の生産と輸出は堅調であったものの、サービス部門の回復が予想ほど進まず、建設部門の活動低下が続いた。また、農業生産も当初の微増予測に反し、前年並みかやや減少する見込みである。
- 中期見通し: 2026年の成長率予測についても、従来の4~5%から3.5%へと下方修正された。これは、世界的な不確実性の長期化や地政学的緊張、さらに国内の社会政治的緊張が影響し、今年からのプラスの波及効果が弱まると見られるためである。
- 2027年の展望: 2027年については、ベオグラードで開催される国際認定博「EXPO 2027」に伴うサービス輸出の増加が牽引し、約5%の成長を見込んでいる。
インフレと金融政策
インフレ率に関しては、政府による特定商品の利益率制限措置(2025年9月から6ヶ月間)の効果もあり、減速傾向にある。9月の消費者物価指数(CPI)上昇率は前年同月比2.9%、10月は2.8%まで低下した。NBSは、これらの一時的措置や外部からのコスト圧力の緩和により、インフレ率は目標許容範囲内(3%±1.5%)で推移すると予測している。
政策金利については、地政学的緊張や一次産品価格への影響を考慮し、9月以降5.75%に据え置かれている。なお、タバコヴィッチ総裁は、困難な状況下での金融政策運営が評価され、米誌グローバル・ファイナンスから「A-」の評価を獲得している。
(アイキャッチ画像出典:Dreamestime)







































































この記事へのコメントはありません。