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セルビアが史上最大規模の軍事パレードを実施-「バランス外交」と国内の政治的緊張を背景に

9月20日、セルビアの首都ベオグラードで、「団結の力(Snaga Jedinstva)」と名付けられた同国史上最大規模の軍事パレードが挙行された。セルビア政府が定めた祝日である「セルビア人の団結、自由、国旗の日」の祝賀行事と位置づけるこのパレードには、約1万人の兵士のほか、戦車、ミサイルシステム、戦闘機など約2,500点の兵器・軍事装備が参加した。

セルビア国防省プレスリリースによれば、ノヴィ・ベオグラード地区のセルビア宮殿前で行われた式典には、セルビアのヴチッチ(Aleksandar Vučić)大統領、ガシッチ(Bratislav Gašić)国防大臣、モイシロヴィッチ(Milan Mojsilović)軍参謀総長らが出席した。また、アラブ首長国連邦(UAE)のムハンマド・ビン・ザーイド・アール・ナヒヤーン(Mohammed bin Zayed Al Nahyan)大統領をはじめ、サライ=ボブロヴリツキ(Kristóf Szalay-Bobrovniczky)ハンガリー国防大臣やヴァリエフ(Kərim Tofiq oğlu Vəliyev)アゼルバイジャン第一国防副大臣兼軍参謀総長、フランス空軍の参謀総長、米国の軍高官など多数の外国要人も臨席し、セルビアの幅広い外交関係を印象付けた。

出典:Tanjug News Agency Official
出典:セルビア国防省

パレードでは、セルビアの多角的な外交・安全保障政策を象徴する多国籍の兵器が披露された。特に注目を集めたのは、フランスから導入契約を結んだ「ラファール(Rafale)」戦闘機であり、フランス空軍の機体が直接飛来し、セルビア空軍のMiG-29戦闘機との編隊飛行を行った。

編隊飛行を行うセルビア空軍のMiG-29と仏空軍のラファール、出典:セルビア国防省

また、中国から導入した「FK-3」対空ミサイルシステム 、イスラエル製の射程300kmを誇る「PULS」多連装ロケット砲や「Hermes 900」大型ドローン、ロシア製の近代化された戦車なども公開された。また、UAE製ドローン「Shadow 25」「Shadow 50」が欧州では初めて披露された。これらに加え、国産の装甲戦闘車両や自走榴弾砲など、初公開を含む多くの国産兵器も登場した。

中国製対空ミサイルシステムFK-3(推定)、出典:B92
中国製中距離防空システムHQ-17AE、出典:セルビア国防省
EDGE Group(UAE)製徘徊型兵器(UAV)”Shadow 25″、出典:セルビア国防省
EDGE Group製徘徊型兵器”Shadow 50″、出典:セルビア国防省
Elbit(イスラエル)製PULS多連装ロケット砲システム(推定)、出典:X/Luka | Дунав Intel@Lukai1861
Elbit(イスラエル)製UAV ”HERMES 900”、出典:セルビア国防省
セルビア製徘徊型兵器”Osica”(推定)、出典:セルビア国防省
”Kurjak IBV”偵察戦闘車(旧ソ連製BRDM-2のセルビア独自改修型)、出典:セルビア国防省
セルビア製装甲兵員輸送車(APC)”Lazar 3″(通常型)、出典:セルビア国防省
セルビア製APC”Lazar 3″(30mm機関砲搭載型)、出典:セルビア国防省
セルビア製155mm自走榴弾砲”Nora B-52″(後方車両)、出典:セルビア国防省
M-84AS1主力戦車、出典:セルビア国防省

ヴチッチ大統領は、このパレードが「国の独立と主権を守る能力」を強調し、外国からの侵略に対する抑止力となるとその意義を述べた。セルビアは欧州連合(EU)加盟を目指す一方、伝統的な友好国であるロシアや、近年関係を深める中国、そしてフランスや米国など西側諸国とも防衛協力を進める複雑なバランス外交を展開している。パレードは、西バルカン地域でクロアチアなどが軍備を増強する中、自国の防衛力を誇示する狙いがあった。

しかし、国内ではこの大規模な軍事パレードに対する批判的な見方も根強い。野党指導者らは、パレードが軍事力の誇示ではなく、ヴチッチ大統領の権威主義的な支配を強化するための政治的ショーであると非難した。実際に、過去10ヶ月にわたり反汚職を掲げ政府への抗議活動を続けてきた大学生や市民らがパレードに近づこうとしたところ、機動隊によって阻止される事態も発生した。学生団体は声明で「現政権は軍の政治的中立性を損なってきた」と批判し、「軍は国民のものである」として、兵士への支持を表明する独自の集会を企画した。

このパレードは、セルビアの軍事力の近代化と、地政学的に複雑な立場を世界に示す場となった一方で、数ヶ月にわたる反政府デモが続く中での開催は、国内の政治的な分断を浮き彫りにした。一部の国民にとっては愛国心と誇りの源泉であったが 、他の国民にとっては、権威主義的な政権による権力誇示と地域の不安定化を助長しかねない軍国主義的な動きとして、懸念をもって受け止められたと言える。

(アイキャッチ画像出典:セルビア国防省)

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