セルビア・コソボ首脳会談開催:コソボがEU提案を拒否しナンバープレート問題について決裂
11月21日、ブリュッセルにおいて、ブチッチ(Aleksandar Vucić)セルビア大統領とクルティ(Albin Kurti)コソボ首相の間で首脳会談が行われた。主な議題は、セルビア・コソボ間で喫緊の懸案事項となっているコソボ北部におけるセルビア側発行車両ナンバープレートの扱いであったが、コソボ側がEUの提案した解決案を拒否したため交渉は決裂したと、仲介役を務めたボレル(Josep Borrell)EU外交安保政策上級代表が明らかにした。ボレル上級代表はまた、コソボ側が国際法上の義務を軽視していると述べ、コソボ側の交渉姿勢を特に批判した。
コソボにおいては、北部に居住するセルビア系住民の多くが、セルビア政府が発行したナンバープレートを使用している。これを違法であるとするコソボ政府は、今年6月に「8月以降はセルビア側発行のナンバープレート使用を認めず、コソボ側発行のナンバープレート使用を義務づける」と宣言し、これに反発するセルビア及びセルビア人住民との間で緊張が高まっていた。その後、EU及び米国の働きか欠けに応じる形でコソボ政府はこの措置の実施を延期していたが、10月下旬になると、新たな措置の実施スケジュールを発表した。それによると、11月21日からはセルビア側ナンバープレート使用車両の所有者に対し罰金などの罰則適用が順次開始され、2023年4月以降はセルビア側ナンバープレート使用を一切認めないものとされていた。
このクルティ政権の新たな発表に対し、セルビア人住民は強く反発し、11月に入ると、議会、行政機関、司法機関、警察などのコソボの公的組織に勤務するセルビア人住民が一斉に職務をボイコットし、緊張が極度に高まっていた。
コソボ独立を支持する欧米主要国も、今般のコソボ政府の発表についての失望を公に表明していた。
21日の首脳会談は、コソボ側の罰則措置開始が迫る中で、コソボ情勢の緊迫化を懸念するEUが呼びかけて行われた。会談後のボレル上級代表声明によれば、EUは今回の交渉に際し、「コソボ側が既に発表している措置の実施を延期する一方で、セルビア側は今後新たにコソボ領内で登録された車両に対するナンバープレートを発行しない」という解決案を提示し、セルビア側はこれを受け入れたものの、コソボ側は、「セルビアによるコソボ独立承認を含む包括的な関係正常化合意の交渉とセットでなければ受け入れない」と主張し、結果的に交渉は決裂した。
会談後の記者会見におけるボレル上級代表の発言概要は次のとおり。
本日、午前8時より8時間にわたり、クルティ首相とブチッチ大統領の間の緊急会談を行った。我々は現在、またしても危機的状態にあり、それゆえにこの会談は重要であった。今年8月にも同様の危機的状況下で緊急のセルビア・コソボ首脳会談を行ったが、その当時よりも事態は悪化している。
8月以降、ナンバープレート問題は悪化の一途を辿ってきた。コソボ政府は11月22日より罰金徴収を開始する事を決定し、その結果、コソボのセルビア人住民はコソボ北部の公的機関から撤収した。この中には、約600名の警察官のほか、裁判官、行政機関職員が含まれる。現在コソボ北部の警察署で勤務しているのは約50名のアルバニア人警察官のみであり、明らかに人数が不足している。
現在の状況はコソボ北部において深刻な治安上の懸念を生じさせている。我々はEU法の支配ミッション(EULEX)及びコソボ安全保障部隊(KFOR)を展開させているが、これらの国際部隊は現地警察の代わりを務めることは出来ない。
EUが仲介するベオグラード・プリシュティナ間対話を通じて過去に合意された重要かつ拘束力ある義務が無視される一方で、法の支配が緊張と事態悪化の口実とされるようなことがあってはならない。
EUとそのパートナー諸国による度重なる緊張緩和の呼びかけは、全て徒労に終わった。本日の会談は、二人の指導者の責任に関わるものであった。その責任とは、迅速に緊張状況を緩和し、再度の平和と安定の確立を担保し、そして最も重要なこととして深刻な危機を回避するという責任である。
今夏以降、我々は、次から次へと設定される人為的な期限と危機状態を回避するという、恒常的な危機管理に煩わされ続けてきている。これは即ち、我々がセルビア・コソボ間の関係正常化という本当の問題について取り組む事が出来ずにいることを意味する。関係正常化が成されていれば、現在のような危機状況は生じなかっただろう。
私は、セルビアとコソボに対し、我々はこのような悪循環を繰り返すことは出来ないと極めて明確に伝えてきた。ブチッチ大統領とクルティ首相はともに、各々の選挙を通じて強固な支持を得て選ばれた指導者である。二人には、指導力と問題解決の意思を示し、関係正常化交渉を進め、彼ら自身の欧州統合の歩みを進めることを期待している。
しかしながら、本日の長時間の議論の結果、両者は解決案に合意することは無かった。
本日の交渉決裂と、今後数日間にコソボ北部で生じ得るいかなる事態の悪化と暴力についても、両指導者が特別の責任を負っていると私は考えている。
透明性確保のために敢えて述べるが、我々はある解決策を提案した。その案は、現在の危険な状況を回避することが出来たはずである。ブチッチ大統領はこの案を受け入れたが、残念なことにクルティ首相は受け入れなかった。
これ以上の事態悪化を避けるために、私は心からお願いしたい。合意が成立していれば良かったが、交渉が決裂した以上、こうして私個人としてお願いするほか無い。
まずコソボ側には、コソボ北部におけるナンバープレート付け替え措置の即時停止を求める。繰り返すが、コソボにはナンバープレート付け替え措置の即時停止を求める。そしてセルビア側には、「KM」表記のものを含む、コソボ内自治体の略記を用いたナンバープレートの発行停止を求める。
我々はこの解決案について概ね合意できていた。しかし、様々な要因によって合意は不可能となってしまった。私は、セルビアとコソボに対し、この二つの内容を実施するよう強く求める。これにより、両当事者が、関係正常化の文脈の中で、ナンバープレート問題についての持続可能な解決策を模索する時間と余裕を生み出すことが出来るだろう。
それと同時に、合意が不成立に終わったという事実は、この交渉をどのように進めるべきかという点について、我々が一定の結論を出さねばならないことを意味している。私は、EU加盟国と我々のパートナー国に対し、交渉においてセルビア・コソボ各々がどのように振る舞ったか、そして彼ら自身が負っている国際法上の義務を彼らが如何に軽んじているかを説明するつもりである。このように発言することは政治的にネガティブな発信となるであろうと承知のうえで敢えて述べるが、国際法上の義務の軽視という問題は、特にコソボ側に当てはまる。
最後に両指導者に対し明確に述べておきたいが、もしもセルビアとコソボにとってEU加盟が究極的な目標なのであれば、それに沿った振る舞いをEUは両者に期待する。
私自身も、ライチャーク特別代表の支援を受けながら、セルビア・コソボ間の対話を引き続き優先課題として取り組んでいく所存である。この問題に対するライチャーク特別代表の仕事ぶり、忍耐、献身を称えたい。
ナンバープレート問題に関する我々の解決案は、フランス及びドイツからも強い支持を得ており、この危機状態を脱する方策になり得るものと考えている。
両当事者には、私の要請に従って行動し、これ以上の事態悪化と新たな危機を避ける事を期待する。
https://www.eeas.europa.eu/eeas/belgrade-pristina-dialogue-press-statement-high-representativevice-president-josep-borrell_en
また、在コソボ米大使館は、「交渉決裂を憂慮すると同時に、コソボ政府に対し、EUとアメリカが解決策を模索する猶予を確保するために、罰則の適用開始を48時間延期するよう求める」との声明を公式Twitterアカウントを通じて発表した。
ブチッチ大統領は会談後、セルビアメディアに対し、「我々は建設的な態度で交渉に臨んだが、コソボ側はそうではなかった。ボレル上級代表の提案は受け入れ可能な内容であり、我々はボレル上級代表の要請に従う用意がある。」述べた。
一方、クルティ首相はコソボメディアに対し、「EUの提案は、最終的な関係正常化合意に向けた交渉を即座に開始するという条件無しには受け入れることはできない。当初のEUの提案には、2023年3月までに関係正常化合意成立を目指すという方針が含まれていたが、ボレル上級代表はその期限設定を放棄してしまった。国家の首脳が、関係正常化を話し合わずにナンバープレート問題だけを扱うような状況は受け入れられない。」と述べた。
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