セルビア

セルビア関連ニュース

セルビア議会、米国クシュナー氏主導のホテル計画を迅速化する法律を可決-欧州市民団体は批判声明を発表

11月7日、セルビア議会は、トランプ(Donald Trump)米大統領の義理の息子であるジャレッド・クシュナー(Jared Kushner)氏が主導する主要建設プロジェクトの開発を迅速化するために設計された特別法を可決した。ベオグラードの旧ユーゴスラヴィア国防省跡地における住居複合施設およびホテル建設プロジェクトの開始手続きに関するこの特別法は、定数250議席の議会において、賛成130票、反対40票で可決された。

「ゲネラルシュタブ(Generalstab)」と呼ばれるこの跡地は、1999年のNATO(北大西洋条約機構)による旧ユーゴスラヴィア空爆で甚大な被害を受けた。かつては文化遺産に指定されていたが、その保護ステータスにより長らく再開発が妨げられていた。しかし、セルビア政府インフラ省は2024年5月、同地の「活性化」のため、クシュナー氏の投資会社アフィニティ・グローバル・デヴェロップメント(Affinity Global Development)と99年間のリース契約を締結した。その6ヶ月後、政府は同複合施設を不動産文化財の登録から削除し、文化財としての保護ステータスを抹消していた。

今回可決された「クネズ・ミロシュ通り、マシャリク通り、ビルチャニン通り、レシャヴスカ通り間の区域における再活性化及び開発計画の実施に係る特別手続きに関する法律」(ZAKON O POSEBNIM POSTUPCIMA RADI REALIZACIJE PROJEKTA REVITALIZACIJE I RAZVOJA LOKACIJE U BEOGRADU IZMEĐU ULICA KNEZA MILOŠA, MASARIKOVE, BIRČANINOVE I RESAVSKE)は、このプロジェクトがセルビア全体の経済発展に重要であると位置づけ、全ての国および地方自治体の機関に対し、クシュナー氏のプロジェクト推進に関連する管轄内の許可等を遅滞なく発行することを義務付けるものとなっている。トランプタワー・ベオグラード(Trump Tower Belgrade)のウェブサイトによると、アフィニティ・グローバル・デヴェロップメントは、このプロジェクトの実施にあたり、トランプ氏が所有する複合企業トランプ・オーガニゼーション(The Trump Organization)およびアラブ首長国連邦のビジネスマン、モハメド・アリ・アラバル(Mohamed Ali Alabbar)氏の不動産投資会社イーグル・ヒルズ(Eagle Hills)と提携している。

一方、今週初めにはヨーロッパおよび国際的な主要な遺産関連団体であるヨーロッパ・ノストラ(EUROPA NOSTRA)、国際記念物遺跡会議(ICOMOS)、ドコモモ・インターナショナル(DOCOMOMO International)、欧州建築家評議会(ACE)が共同声明を発表し、この規制に対する「深い懸念と断固たる反対」を表明した。各団体は、「提案された特別法(Lex Specialis)」は、ゲネラルシュタブ跡地に関連する将来の開発プロジェクトの実施に関して、セルビアの既存の文化遺産および環境に関する法律を停止させることを目的としている」と批判している。

さらに各団体は、組織犯罪検察局(Office of the Prosecutor for Organised Crime)が、2024年11月14日の政府決定による同地の保護ステータス抹消について現在調査中である点に触れ、この法律の採択は「セルビアにおける憲法と法の支配に対する重大な違反となる」と指摘した。

セルビアの組織犯罪検察局は2025年5月、国立文化財保護研究所(state institute for protection of cultural monuments)の元所長であるゴラン・ヴァシッチ(Goran Vasic)氏が、2024年11月の政府決定の根拠となったゲネラルシュタブの文化遺産ステータス抹消の提案書を偽造したことを認めたと発表しており、この問題に関する調査は現在も継続中と成っている。

クシュナー氏が言明したところによると、計画されている建設費5億米ドル規模の施設には、高級ホテル、1,500戸の住居からなるアパート群、博物館が含まれる。この計画は地元住民の反対も招いており、3月のNATO空爆26周年の日には、数千人がゲネラルシュタブ前でプロジェクトに抗議していた。

(アイキャッチ画像はトランプタワー・ベオグラード想像図、出典:trumpbelgrade.com)

関連記事一覧

  1. この記事へのコメントはありません。