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米国による制裁発効を受けヤナフがNISへの原油供給を停止-ヴチッチ大統領は米露との間で外交的解決を模索

10月9日、クロアチア国営の石油パイプライン運営会社ヤナフ(Jadranski naftovod, JANAF)は、セルビアの石油・ガス大手NIS(Naftna Industrija Srbije)に対する米国の制裁が発効したことを受け、10月8日をもって同社との原油輸送契約の履行が不可能になったと発表した。セルビア唯一の製油所を運営し、原油輸入の全量をヤナフのパイプラインに依存するNISにとって、この供給停止は深刻な打撃となる。

今回の措置は、米国財務省がロシアによるウクライナ侵攻への対抗措置の一環として、今年1月にNISに対して発表した制裁が発効したことによるものである。NISはロシア国営のガスプロム・ネフチ(Gazprom Neft)が株式の44.85%を保有しており、ロシア資本が過半数を占めていることが制裁の理由とされた。制裁の施行はこれまで8回にわたり延期されてきたが、今回ついに発効の運びとなった。

ヤナフは9日に発表したプレスリリースの中で「クロアチア政府および米国の法律顧問と協力し、適用される規制の枠組みの中で可能な解決策を積極的に模索し続ける」と表明した。同社は直前まで、米国財務省外国資産管理局(Office of Foreign Assets Control, OFAC)から10月15日までNISへの供給を継続するためのライセンスを取得していたが、NIS側が制裁施行の新たな延期を確保できなかったため、供給停止を余儀なくされた。

ヤナフとNISは、2024年1月1日から2026年12月31日までの期間に1,000万トンの原油を輸送する契約を締結していた。この契約はヤナフの収益の約3分の1を占める重要なものであり、ヤナフの経営陣は、今回の事態に備えてストレステストを実施してきたと説明している。「ヤナフの経営は安定しており、危険にさらされることはない。事業の多角化と新規市場への拡大という計画を継続する」と述べ、経営への影響は限定的であるとの見方を示した。

一方、NISは北部パンチェヴォ(Pančevo)市にセルビア唯一の製油所(年間処理能力480万トン)を構え、国内に328ヶ所のガソリンスタンド網を有するほか、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、ブルガリア、ルーマニアでも事業を展開している。NISは9日、製油に必要な原油備蓄は十分にあり、国内市場への石油製品の安定供給は維持されていると発表したが、備蓄がどの程度の期間持つのかについては明らかにしていない。

この事態を受け、セルビアのヴチッチ(Aleksandar Vučić)大統領は同日、緊急の記者会見を開き、今回の制裁は「セルビアにとって非常に悪いニュースであり、国民一人一人に影響が及ぶだろう」と深刻な懸念を表明した。ヴチッチ大統領は、NISの製油所は新たな原油供給がなければ11月1日までしか稼働できないとの見通しを示したものの、年末までの国内の燃料供給には問題ないとの認識も示した。

出典:Tanjug News Agency official

ヴチッチ大統領は今後の対応として、自身も参加するワーキンググループを設置して国民生活の安定確保に努めると発表した。また外交面では、米国との協議を継続すると同時に、ロシア側にも「制裁がセルビアに与える影響を再考し、共に解決策を見出す」よう要請する考えを明らかにした。また、NISのセルビア人取締役らが、ロシア側の今後の計画に関する報告を求めるため、臨時株主総会の開催を要求したことも明らかにした。

セルビアにとって、エネルギー安全保障上の重要なライフラインが絶たれたことになり、今後の代替供給ルートの確保が急務となる。NISはセルビア政府(NIS株式の29.87%を保有)などと協力し、米財務省に対して制裁対象からの除外を申請しているが、プロセスは複雑で長期化が予想され、今回の供給停止がセルビア経済全体に与える影響が懸念されている。

(アイキャッチ画像出典:Shutterstock)

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