ミトロビツァの橋開通を巡りコソヴォ・欧米間の緊張が高まる:EU報道官と大統領が非難の応酬、NATOはコソヴォの一方的措置を牽制
セルビア人とアルバニア人が川を挟んで対峙するコソヴォ北部の街ミトロビツァに関し、コソヴォ政府が表明した街の南北を結ぶ橋の開通を巡り、欧米とコソヴォ政府の緊張が高まっている。
8月13日にはフベニエル(Jeffrey M. Hovenier)駐コソヴォ米国大使が、異例の強い表現でコソヴォ政府の動きを批判したが、これ以降もEUやNATOからコソヴォ政府を牽制する声が続いている。
8月20日、コソヴォを訪問した北大西洋条約機構(NATO)のルーゲ事務総長補(Ambassador Boris Ruge, Assistant Secretary General for Political Affairs and Security Policy)は、オスマニ(Vjosa Osmani)コソヴォ大統領との会談後、自身のX(旧Twitter)アカウントを通じて、「ミトロビツァの橋を巡る問題について、如何なる決定も対話を通じて、調整された形でなされる必要があるというNATOの立場を強調した。全ての当事者が、緊張を高めるような一方的な宣言や行動を控えることが必要である」と述べた。
ルーゲ事務総長補の訪問に先立ち、19日には、NATOが主導する国際安全保障部隊(KFOR)のウルタシュ(Özkan Ulutaş)司令官もオスマニ大統領と会談し、この問題に関するKFORの立場を伝えている
一方で、この問題を巡ってはEUとコソヴォの関係悪化が目立っている。
8月14日、EUが仲介するベオグラード・プリシュティナ間対話を担当するライチャーク(Mirislav Lajcak)EU特別代表は、自身のXアカウントを通じて、「EUは、ミトロビツァの橋に関する問題をEUが仲介する対話の中で解決すべきと繰り返し述べてきた。EUが橋の開通に反対している、あるいはEUはこれまでと立場を変えたという主張は誤りである。影響を被る住民の意思に反した決定を押しつけることは関係正常化の助けにならない。少数派の問題の機微を理解することは良い統治の必要条件である。橋の開通をどのように行うかは、次回の対話の議題となるだろう」と述べた。
このライチャーク特別代表の投稿に対し、オスマニ大統領は「橋の問題をブリュッセルで話す必要は無い。この問題についてセルビアの同意は必要ない」と述べ、異議を唱えた。
また、コソヴォ内外の各種報道によれば、EUのスタノ(Peter Stano)報道官は15日、ブリュッセルでの定例記者会見において、記者の質問に答える形で、「ミトロビツァの橋の問題はブリュッセルで話し合う必要がある。コソヴォは友人の忠告に耳を傾けるできであり、そうでなければ友人を失うことになる」と述べた。このスタノ報道官の発言について、オスマニ大統領は「人種差別的であり、このような人間が報道官を務める組織の言うことに耳を傾ける必要は無い」と非難し、「このスロバキア人は、自国の橋を渡るときに他国の許可を求めるのだろうか」等と述べた。
このオスマニ大統領の批判に対し、スタノ報道官は16日、再度記者の質問に答える形で、「この問題について新たに述べることは無いし、不規則発言にその都度コメントすることも無い。今言えることは、繰り返しになるが、コソヴォは友人の忠告を聞くべきであり、そうしなければ友人を失うことになるということである。橋の問題を話し合うということは、過去に成立した合意の履行方法を議論するという意味であり、新たな合意を結ぶということではない」と述べたとされている。
EUとの関係を巡っては、コソヴォ中銀によるディナール使用禁止措置の強行や、コソヴォ北部のセルビア系金融機関の閉鎖の際にも、EUがコソヴォ側を非難する声明を発出しており、このようなスタノ報道官とオスマニ大統領の批判の応酬については、EUとの関係悪化を懸念する声がコソヴォ国内からも挙がっている。
また21日には、米国開発庁(USAID)からコソヴォ政府に対する3,450万米ドルの無償資金協力案件の署名式後、オスマニ大統領との共同記者会見に臨んだフベニエル米国大使が、次のとおり発言した。
多くの人が報道等を通じて、米国を含む国際社会のパートナーとコソヴォ政府との間に存在する、クルティ政権の行動に対する立場の相違について目にしていると思う。我々はコソヴォ政府との間である種の挑戦に直面しており、それは我々とコソヴォのパートナーシップの質に対し、既に影響を及ぼしている。米国政府は、コソヴォ政府が、我々やEU、NATOとの緊密で建設的な関与に戻ることを望んでいる。
(アイキャッチ画像出典:Shutterstock)
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