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セルビア政府、大規模デモが続く中で生活費高騰対策を発表

8月24日、セルビアのヴチッチ(Aleksandar Vučić)大統領は、国民の生活費負担を軽減するための一連の包括的な経済対策を発表した。この発表は、政府の腐敗などを非難する大規模な抗議デモが国内で続く中で行われた。

出典:Tanjug News Agency official

今回発表された対策の柱の一つは、物価高騰の抑制である。ヴチッチ大統領は、2025年9月1日から6ヶ月間、2024年の収益が45億ディナールを超える大手小売・卸売業者24社を対象に、利益率の上限を20%に設定すると発表した。この措置は食品や家庭用品、衛生用品など23カテゴリーにわたる約3,000品目に適用され、政府はこれにより価格が15%以上引き下がることを見込んでいる。この大手小売業者に対する利益率上限の設定については、既にマーリ(Siniša Mali)財務大臣から表明されていたものと同様の内容となっている。また、ヴチッチ大統領自身も、物価高騰対策として低所得者支援策を導入する方針を7月末に表明していた。

また、国内生産者を保護する目的で、生産者が小売業者に提供する商業リベートについても10%の上限が設定される。

家計支援策としては、ローンの金利引き下げが盛り込まれた。月収10万ディナール(約14.5万円)以下の世帯を対象に、現金ローン、消費者ローン、住宅ローンの金利が引き下げられる。ヴチッチ大統領によれば、これにより労働者の約63%、年金受給者の約92%が恩恵を受けるとされている。具体的には、最大100万ディナール(約145万円)までの現金ローンの金利上限は現行の年利10.85%から7.5%に引き下げられ、さらに国営の郵便銀行(Banka Poštanska Štedionica)は年利5.99%でローンを提供する。また住宅ローン金利は0.5%ポイント引き下げられる。

さらに、社会的弱者を保護するための措置も講じられる。強制執行法が改正され、債務者が所有する唯一の住居(60平方メートルまで)については、裁判所からの特別命令無しでの強制売却が禁止される。また、約24万人の低所得年金受給者に対し、2025年10月から2026年4月までの期間、毎月1,000ディナール(約1,450円)の電気料金割引が適用されるほか、社会的弱者向けの薪の価格も1平方メートルあたり4,581ディナール(約6,700円)から2,900ディナール(約4,240円)へと36.7%引き下げられる。

今回、これらの対策が発表された背景には、長期化する反政府デモの影響があると見られている。2024年11月1日にノヴィ・サド(Novi Sad)の駅でコンクリート製の天蓋が崩落し16人が死亡した事故をきっかけに、学生を中心とした大規模な抗議活動が続いている。デモ参加者らは、事故の原因は政府内の腐敗にあると主張し、ヴチッチ政権による強権的な統治やメディア統制を厳しく非難している。

8月中旬からはデモ参加者と警官隊の衝突によって双方に負傷者が多数出ているほか、過激化した一部のデモ参加者が与党事務所に放火するなど、デモが暴力的な様相を呈する場面が見られている。この状況に対し、ヴチッチ大統領は当初、強硬措置によって断固たる対応を執る方針を表明していたが、22日にはデモ主導者との対話を呼びかけるなど、その対応は硬軟織り交ぜたものとなっている。

昨年11月のデモ発生に政府が大規模な経済対策を発表するのはこれが初めてではなく、ヴチッチ大統領は、昨年12月に4億ユーロ規模の若年者向け住宅ローンプログラムを発表しているが、これまでのところデモの沈静化にはつながっていない。

こうした物価高騰対策が表明される一方で、国営のセルビア電力産業(Elektroprivreda Srbije, EPS)は10月1日から7%の電力料金値上げを計画しており、今回の政府による生活費支援策の効果が一部相殺される可能性も指摘されている。

(1ディナール=145円)

(アイキャッチ画像出典:Shutterstock)

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