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ロシア、セルビアとの長期ガス供給契約を保留し年末までの短期延長を提案-NIS国有化を牽制か

10月11日、セルビアのヴチッチ(Aleksandar Vučić)大統領は、ロシアの国営天然ガス企業ガスプロム(Gazprom)が、新たな長期契約の代わりに、現行のガス供給契約を12月31日までの2か月間延長する案を提示したと発表した。ヴチッチ大統領は、ロシア側によるこの提案を「非常に悪いメッセージだ」と述べ、米国による制裁下にあるセルビア石油産業(Naftna Industrija Srbije, NIS)の扱いをめぐり、ロシアがセルビアに対する圧力を強めているとの見方を示した。

ヴチッチ大統領はテレビインタビューで、「なぜ年末までなのか?論理は単純だ。彼らは『もしセルビアがNISの国有化などに動くのであれば、12月31日にガスを止めることができる』と我々に伝えたいのだ」と語り、この短期延長がロシア側の牽制であるとの認識を明らかにした。セルビアは2022年にガスプロムと年間最大22億立方メートルのガス供給に関する3年契約を締結した。契約は今年5月に失効したが、その後10月末まで延長されていた。今回提示されたのはセルビアが望んでいた新たな長期契約ではなく、年末までの短期的な契約再延長となった。

出典:Informer

この背景には、ロシア資本が過半数を所有するNISに対する米国の制裁があると見られる。ロシアによるウクライナ侵攻への対抗措置として米国財務省が発表したこの制裁は、数度の延期を経て10月8日に発効した。NISの株式は、ガスプロムの子会社であるガスプロム・ネフチ(Gazprom Neft)が44.85%、ガスプロムが実質的に管理する別の企業が11.3%を保有し、セルビア政府の持ち分は29.87%に留まる。

制裁発効に伴い、クロアチアのパイプライン運営会社ヤナフ(Jadranski naftovod, Janaf)は、NISへの原油供給を停止すると発表。NISは原油輸入の全てを同社に依存しており、新たな供給源がなければセルビア唯一のパンチェヴォ(Pančevo)製油所は11月1日までに操業停止に追い込まれる可能性がある。

ヴチッチ大統領によれば、米国側は制裁回避策としてセルビアによるNISの国有化を提案したが、「他人の資本や財産を奪うことは受け入れられない」として、これを拒否したと述べ、セルビアにNISを国有化する意図はないと改めて強調した。ヴチッチ大統領は10月13日にガスプロム・ネフチの経営陣とベオグラードで会談し、ロシア側に有利な形での危機解決策を提示する意向を示しているが、受け入れられるかは不透明だとしている。

セルビアは欧州連合(EU)加盟候補国でありながら、伝統的にロシアと友好関係にあり、ウクライナ侵攻後も対露制裁に参加していない。エネルギー供給、特に天然ガスをロシアに大きく依存する一方、ロシアはセルビアが領有権を主張するコソヴォの独立を承認しないなど、政治的にも強いつながりを持つ。

セルビアは現在、ロシア産ガスをトルコストリーム経由で、アゼルバイジャン産ガスをブルガリアとの国境を越えるガスインターコネクターを通じて受け入れている。セルビアの今年のガス消費量は約27億立方メートルと予測されており、その90%以上を輸入に依存している。ウクライナ侵攻以降、セルビアは天然ガスについても供給元の多様化を図っており、2023年にはアゼルバイジャンとの間で年間4億立方メートルの天然ガス購入契約を結んでいる。しかし、現在もなお国内需要の大部分はロシア産天然ガスによって賄われており、国営ガス会社スルビヤガスのバヤトヴィッチ(Dusan Bajatović)社長は、先月の段階で、ロシアとの新たな3年間の契約では年間25億立方メートルに供給量が増加されるとの見通しを示していた。そのため、ロシアからのガス供給が滞った場合、セルビア国内のエネルギー供給に深刻な影響が出る可能性がある。

ヴチッチ大統領は、対露制裁への不参加がセルビアのEU加盟への唯一の障壁であるとの見解を示しており、今週水曜日には欧州委員会のフォン・デア・ライエン(Ursula von der Leyen)委員長との会談も予定されている。エネルギー安全保障を巡る問題は、セルビアの複雑な地政学的立場を改めて浮き彫りにしている。

(アイキャッチ画像出典:Shutterstock)

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