
モンテネグロ政府、暴力事件への抗議拡大を受けトルコ国民への査証免除制度を一時停止-EU査証政策との調和の必要性も影響か
10月27日、モンテネグロ政府は、トルコ国民に対する査証(ビザ)免除制度(90日間の滞在を許可)を一時的に停止する法令改正を、臨時のリモート閣議において承認した。これは、前週末に首都ポドゴリツァ(Podgorica)で発生した暴力事件とそれに続く抗議活動を受けた措置であった。スパイッチ(Milojko Spajić)首相は26日夜、自身のX(旧Twitter)アカウントで緊急手続きにより同決定を行うと発表しており、政府決定は官報掲載の翌日に発効する。
Sjutra po hitnoj proceduri donosimo odluku o privremenom ukidanju bezviznog režima za državljane Turske. U cilju očuvanja ekonomske aktivnosti i dobrih bilateralnih odnosa, u narednom periodu iniciraćemo intenzivne razgovore sa Republikom Turskom kako bi u duhu dobre saradnje i…
— Milojko Spajić (@MickeySpajic) October 26, 2025
この決定に先立つ25日夜、ポドゴリツァのザビェロ(Zabjelo)地区でモンテネグロ国民1名が刃物で襲われる事件が発生していた。警察は基礎公訴局の命令に基づき、アゼルバイジャン国籍者とトルコ国籍者の計2名を逮捕した。翌26日には、同地区で住民による抗議デモが発生し、一部がトルコ国民を標的とした攻撃的なスローガン(「トルコ人を殺せ」との叫びも確認され、高等検察庁が捜査を開始した)を掲げた。この騒乱でトルコ国民が所有する車両2台と資産1件が損傷し、警察は45人のトルコ国民を拘束した。
モンテネグロ政府プレスリリースによると、今回の査証免除停止は一時的な措置であり、外国人の入国・滞在に関する監視メカニズムを可及的速やかに見直し、強化することを目的としている。政府はまた、国内に居住する約1万4千人のトルコ国民の地位に配慮し、その滞在が合法的に継続できるよう必要な措置を講じるとともに、外務省が査証の迅速な発給手続きを保証すると説明した。政府はこの決定を「公共の秩序と安全を維持する必要性」に基づくものとし、法律遵守を求める明確なメッセージであると強調した。
この事態に対し、ミラトヴィッチ(Jakov Milatović)大統領は攻撃を非難し、国民に冷静と自制を呼びかけるとともに、「集団的責任やスティグマ化は許されない」と述べ、より責任ある移民政策の必要性を訴えた。また、情報・安全保障部門作戦調整官でもあるベチッチ(Aleksa Bečić)副首相は、「法は誰に対しても平等であり、国家は個人の上にある」と述べ、国籍を問わず法を遵守しない者には厳正に対処すると強調した。
モンテネグロ国内においてトルコ国民の存在感は増している。公共放送RTCGが警察発表情報として報じたところによれば、9月30日時点でのトルコ国籍居住者数は13,308人に上る。また、モンテネグロ統計局の発表によれば、2024年時点での国内の外国企業29,960社のうち32.8%にあたる9,818社がトルコ国民によって所有されている。観光業においてもトルコは重要市場であり、2024年の観光客数ではセルビア、ロシア、ボスニアに次ぐ第4位(4.9%)を占めていた。
一方で、欧州連合(EU)はモンテネグロを含む西バルカン各国に対し、EUの査証政策との整合性をもたせるため、トルコ国民への査証免除制度を廃止するよう圧力をかけている。モンテネグロは既に、EUが査証を導入しているアラブ首長国連邦、キューバ、エクアドルの各国民に対して査証免除撤廃(ビザ再導入)の措置を執ってきているが、欧州委員会はモンテネグロのEU加盟プロセスに関する2023年版国別報告書の中で、モンテネグロ政府による査証政策の調和に向けた取り組みを評価する一方、「EUが査証を必要としている国のうち、モンテネグロが査証免除を認めている国が12カ国存在しており、そのうちアルメニア、ベラルーシ、中国、クウェート、カタール、ロシア、トルコの7カ国は恒常的な査証免除を認められている」と指摘していた。トルコ国民はEU加盟国への入国にビザを必要としている。モンテネグロ政府の「深刻・組織犯罪脅威評価(SOCTA)」では、近年、特にトルコ、ジョージア、ロシア出身の外国犯罪グループの活動が活発化しているとも指摘されていた。
モンテネグロのジャーナリストであるコソヴィッチ(Srdan Kosović)氏は、今回の政府決定について、緊張が高まる中での発表タイミングと、査証免除制度が問題の根源であるかのように示唆した説明方法を「非常に問題がある」と批判した。同氏は、この措置が「移民政策の欠如と当局の非効率な行動を隠すための性急な動き」である可能性を指摘し、事件の背景には市民の自発的な反応と、政治的不安定化を狙う組織的な動きが組み合わさっているとの見方を示した。
モンテネグロ政府の決定に対し、トルコ政府は声明を発表し、モンテネグロ国内で「トルコ国民にも影響を与えた複数の憂慮すべき事態」を受け、モンテネグロ当局と連絡を取ったことを明らかにしたが、査証免除停止の決定自体については直接言及していない。
(アイキャッチ画像出典:Shutterstock)

































































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