
ブルチコ行政区が米国投資家と連携し証券取引所設立へ-デイトン合意30周年にあわせた経済改革
11月21日、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ(BiH)のブルチコ行政区(Brčko distrikt)政府は、デイトン和平合意仮調印から30周年となるこの日、米国投資家グループのプロジェクトチームと協力し、同行政区における証券取引所設立に向けたイニシアチブを正式に開始した。警察本部会議室で行われた記念式典には、行政区の各機関、国際機関、各国大使館の代表者が集まり、地域の資本市場を近代化させるための新たな法的枠組みの整備に着手することが発表された。
ブルチコ行政府プレスリリースによれば、式典において、ミリッチ(Siniša Milić)ブルチコ市長は、証券取引所の設立に向けた法的枠組みの構築開始が行政区の経済発展に新たな可能性をもたらすと同時に、その政治的安定性を裏付けるものであると強調した。ミリッチ市長は、このプロジェクトが米国投資家グループとの協力の下で進められている点に触れ、それがブルチコ行政区の安定性を示す強力なメッセージであると述べた。また、デイトン合意30周年の節目に、ブルチコが国内で最も安定した地域の一つとして、国全体の進むべき方向性を示しているとの認識を表明した。
デイトン合意の「未解決問題」とブルチコ行政区の特異性
今回の証券取引所設立の意義を理解するためには、ブルチコ行政区が有する特殊な法的・政治的地位について理解する必要がある。 ボスニア紛争を終結させた1995年のデイトン和平合意において、BiHは主にボシュニャク系(ムスリム系)及びクロアチア系が多数派である「ボスニア・ヘルツェゴビナ連邦(FBiH)」とセルビア系が多数派となる「スルプスカ共和国(RS)」という2つの構成主体(エンティティ)に分割された。
しかし、北東部に位置する要衝ブルチコの帰属については、両勢力が譲らず合意に至らなかったため、国際的な仲裁裁定に委ねられた経緯がある。 1999年の最終裁定により、ブルチコは「双方の構成主体が共同で保有する(コンドミニアム)が、いずれの構成主体の管轄下にも属さない、BiH国家直轄の単一行政単位」として定義された。これにより、ブルチコは独自の政府、議会、警察機構、司法制度を有し、国家レベルの法律を除き、独自の法体系を持つことが認められている。
地政学的には、RSの東部と西部を物理的に分断する位置にあり、同時にFBiHにとっては欧州方面への出口となるため、この地域の安定はBiH全体の安全保障に直結する。そのため、行政区成立後の1997年から2012年まで、行政区の運営を管理するブルチコ行政区国際監督官(Brcko Internaitonal Supervisor)が置かれており、現在でも国際社会を代表する上級代表事務所(OHR)の下部組織としてブルチコ行政区監督官(筆頭副上級代表が兼務)が存在しており、国際社会が行政運営に強い権限と影響力を持ち続けている。
元監督官が投資家側として帰還
今回のプロジェクトには、かつて国際監督官を務めた経歴を持つ米国の元外交官であるグレゴリアン(Raffi Gregorian)氏が、米国投資家を代表するプロジェクトチームの一員として関与している点が注目される。グレゴリアン氏は、新設される証券取引所がブロックチェーン技術に基づいたデジタル台帳や仮想通貨の合法的な取り扱いなど、革新的な技術を導入する計画であることを明らかにした。さらに、証券委員会には2名の国際的な専門家を招聘し、透明性の確保と腐敗防止に向けた厳格な措置を講じることで、国内外の投資家からの信頼獲得を目指す方針を示した。これにより、行政区政府による国債の発行や、企業および個人による資本参加が可能となり、地域経済の活性化と雇用創出が期待されている。
ブルチコ行政区議会のブルチェヴィッチ(Damir Bulčević)議長は、証券取引所法案はすでに準備され、所管の委員会で審議中であると説明した。ブルチェヴィッチ議長は、行政区の設立記念日である2026年3月8日までに議会で同法が採択され、その後正式に証券取引所が稼働を開始するとの見通しを示しており、将来的にはブルチコが金融センターとして機能することへの期待を寄せた。
また、式典に出席したクリショック(Louis Crishock)筆頭副上級代表代理兼ブルチコ行政区監督官は、証券取引所の設立が行政区を安定的かつビジネスに適した環境として確固たるものにするための重要なステップであると評価し、インフラ整備や改革の進展に期待を表明した。ドミッチ(Anto Domić)副市長も、この取り組みが行政区の発展における転換点となり、若者の流出を防ぎ、住民の帰還を促進する社会的な安定にも寄与するとの見解を示した。
このイニシアチブに対しては在ボスニア米国大使館も支持を表明しており、ギンケル(John Ginkel)臨時代理大使がビデオメッセージを通じて、行政区の経済発展に対する米国の継続的な支援を伝えた。ブルチコ行政区商工会議所のハジャイリッチ(Sanela Hadžajlić)会頭は、地元の中小企業が証券取引所の利点を理解し活用できるよう、教育プログラムの必要性を訴えた。
(アイキャッチ画像出典:Wikimedia Commons CC BY-SA 3.0)





































































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