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ロンドンでベルリン・プロセス首脳会合開催-不法移民対策と安全保障が焦点に

10月22日、西バルカン諸国及びドイツなど欧州連合(EU)加盟国の首脳らがロンドンに集まり、ベルリン・プロセス(Berlin Process)の枠組みで首脳会合が開催された。ベルリン・プロセスは、2014年にドイツのメルケル(Angela Merkel)前首相の主導で発足した外交イニシアティブであり、西バルカン6カ国(WB6:アルバニア、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、コソヴォ、モンテネグロ、北マケドニア、セルビア)間の地域協力の強化と、EU加盟への取り組みを加速させることを目的としている。

今回の会合は英国のスターマー(Keir Starmer)首相が主催し、WB6首脳のほか、ドイツのメルツ(Friedrich Merz)首相やEU高官らが出席した。議論は安全保障、経済成長、地域協力など多岐にわたったが、特に英国の強い関心事である不法移民問題と、ロシアのウクライナ侵攻を踏まえた安全保障問題が中心的な議題となった。

出典:The Gurdian

スターマー首相は冒頭、西バルカンを「欧州の大釜」と表現し、欧州大陸の安全保障が試される場所であると指摘。不法移民対策として、英国が拒否した亡命希望者を国外退去まで収容する「リターン・ハブ(return hubs)」の設置を一部の国と交渉中であることを明らかにした。

出典:APT

地域の安全保障に関して、コソヴォのクルティ(Albin Kurti)暫定首相は、2023年9月に発生したコソヴォ北部のバニスカ(Banjska)村で発生した警察官殺害事件に言及。EU加盟に向けたコソヴォの進捗はセルビアによる「継続的な侵略の脅威」にさらされていると非難した。事件の責任を認めたコソヴォ・セルビア系政党「セルビア人リスト」元副党首のラドイチッチ(Milan Radoićić)氏がセルビア政府の支援を受けながら司法から逃れているとし、セルビアが「不処罰で行動すること」を許してはならないと国際社会に強く訴えた。クルティ暫定首相はまた、西バルカンがEUやNATOの枠外にある脆弱性を突き、ロシアや中国が影響力を及ぼしていると警告し、NATO加盟への支援を求めた。

これに対し、セルビアのマツット(Đuro Macut)首相は、セルビアがコソヴォの地位に関連する「受け入れがたい政治的条件を次々に押しつけられる悪循環」に陥っていると不満を表明した。ドイツのメルツ首相は、西バルカンの未来はEUにあるとしながらも、セルビアとコソヴォに対し、関係正常化のための対話を強化し、既存の合意を完全に履行するよう強く促した。

焦点となった移民の「リターン・ハブ」構想については、各国の反応が分かれた。トルコメディアの報道によれば、アルバニアのラマ(Edi Rama)首相は「アルバニアでは決してあり得ない」と明確に拒否した。モンテネグロのスパイッチ(Milojko Spajić)首相は、英国が鉄道インフラに100億ユーロを投資するなら検討すると述べ、事実上の取引材料とする姿勢を見せた。一方でコソヴォのクルティ首相代行は、コソヴォは通過点に過ぎないとしながらも、英国からの移民受け入れを含め「責任の一部を担う用意がある」と表明した。セルビアのマツット首相は、会合で直接の提案はなかったとしつつ、完全な提案があれば検討するとの立場を示した。

会合ではこのほか、WB6が「共同移民タスクフォース(JMTF)」に参加することで合意し、英国がNATO主導の平和維持部隊であるKFOR(コソヴォ国際安全保障部隊)への部隊派遣を2028年まで延長することが発表された。次回のベルリン・プロセス首脳会合は、2026年にモンテネグロで開催される予定となっている。

議長結論文書の概要

同日発表された議長結論文書では、ロシアによるウクライナ侵攻が続く中での欧州協力の重要性を強調。安全保障分野では、ロシアの侵略を非難しウクライナへの揺るぎない支持を再確認するとともに、偽情報対策、テロ対策、組織犯罪対策での協力を確認した。特に不法移民対策として、西バルカン6カ国がJMTFに参加することで合意したと言及された。

経済成長に関しては、西バルカン共通地域市場(Common Regional Market, CRM)の実施や、デジタル及びグリーン移行の加速、エネルギー安全保障の強化に向けた取り組みの重要性が示された。

和解と善隣関係については、行方不明者問題の解決を含む過去の紛争の遺産に取り組む必要性や、西バルカン地域青年協力機構(Regional Youth Cooperation Office, RYCO)を通じた若者交流の促進が強調された。

EU拡大に関しては、西バルカン諸国のEU加盟へのコミットメントが改めて表明され、そのために必要な改革の実行が求められた。特にセルビアとコソヴォに対しては、関係正常化に向けた対話の進展と、オフリド合意を含む既存の合意事項を遅滞なく完全に履行するよう強く促した。また、ボスニア・ヘルツェゴヴィナの主権と領土一体性への支持が再確認され、あらゆる分離主義的な動きへの懸念が表明された。

(アイキャッチ画像出典:Vlada Crne Gore)

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