
スルプスカ共和国大統領選、ドディック氏の後継者カラン氏が勝利宣言も野党は不正を主張
11月24日、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ中央選挙管理委員会は、23日に投開票が行われた、ボスニア国家を構成する二つの政体(entity)の一つであるスルプスカ共和国(Republika Srpska: RS)の大統領選挙において、独立社会民主同盟(Savez nezavisnih socijaldemokrata: SNSD)の候補であるシニシャ・カラン(Siniša Karan)氏が勝利したとの暫定結果を発表した。今回の選挙は、長年にわたり同地域の政治を支配してきたミロラド・ドディック(Milorad Dodik)前RS大統領が公職から追放されたことに伴う早期選挙であり、西バルカン地域の政治的安定を左右する重要な局面として注目されていた。
中央選挙管理委員会の発表によると、開票率99.72%の時点でカラン氏は50.3%の得票を獲得し、対立候補であるセルビア民主党(Srpska demokratska stranka: SDS)のブランコ・ブラヌシャ(Branko Blanuša)氏の得票率48.37%を僅差で上回った。投票率は約34.8%にとどまり、有権者の政治に対する関心の低下や既存政治への失望感が反映された形となった。
カラン氏はドディック氏が率いるSNSDの幹部であり、かつてRS内相を務めた経歴を持つ。今回の選挙は、今年8月にドディック氏が、ボスニアの和平合意履行を監督する上級代表(High Representative)であるクリスチャン・シュミット(Christian Schmidt)氏の決定を遵守しなかったとして起訴され、1年間の拘禁刑および6年間の公職追放処分を受けたことにより実施された。カラン氏の勝利は、ドディック氏が表舞台から退いた後も、その政治的影響力と強硬な民族主義的路線がRS内で維持されることを示唆している。
勝利宣言においてカラン氏は、「セルビア人(系住民)は、自分たちの意志を変えられると信じる外国人や簒奪者に対し、最終的な『ノー』を突きつけた」と述べ、国際社会の介入を拒絶する姿勢を鮮明にした。また、憲法上の自由を守りつつ、投資の促進と経済成長を目指すと表明したが、その実質的な政治方針はドディック路線の継承であると見られている。
一方で、RS野党勢力はこの結果を認めていない。国民戦線(Narodni Front: NF)の党首イェレナ・トリヴィッチ(Jelena Trivic)氏は、ドボイやズヴォルニクといった特定の自治体において組織的な不正が行われたと主張し、「盗まれた選挙」であると激しく非難した。SDSの幹部もまた、今回の結果を「政権による犯罪的な略奪」であるとし、社会の分断がさらに深まったとの認識を示している。選挙日当日には複数の不正疑惑や選挙法違反が報告されており、中央選挙管理委員会による最終的な判断が待たれる状況にある。
今回の選挙戦は、ドディック氏らによる分離独立をほのめかす言動や、シュミット上級代表に対する敵対的なレトリックが飛び交う緊張した政治情勢の中で行われた。選挙直前にはSNSDの幹部がシュミット上級代表を「占領者」と呼びナチス時代のヘルメットを送りつけるなど、過激な挑発行為も見られた。欧州委員会は11月、RSの政治危機がボスニアのEU加盟プロセスを停滞させていると指摘しており、ドディック氏の後継者と目されるカラン氏の就任により、国家中央政府との対立構造や改革の遅延が継続することが懸念されている。
経済面においても、政情不安は影を落としている。ボスニアの2024年のGDP成長率は2.6%に鈍化し、2025年上半期には約1.7%まで低下した。労働力不足や賃金上昇が続く中、政治的な膠着状態が必要な構造改革を遅らせているのが現状である。S&Pグローバル・レーティングはボスニアの格付けを「B+/B」で据え置いているものの、根深い政治的緊張が信用プロファイルの重石となっていると分析している。カラン新体制下でのRSが、国際社会やボスニア中央政府とどのような距離感を保つのか、今後の動向が注視される。
(アイキャッチ画像出典:Shutterstock)




































































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