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【報道】セルビア石油産業(NIS)のロシア側権益売却交渉-米国制裁回避に向けUAE国有企業が有力候補に浮上

11月20日、セルビアのヴチッチ(Aleksandar Vučić)大統領は、ベオグラードで開催された英国・西バルカン地域ビジネス会議「Building Futures」に出席し、ロシアのガスプロム社傘下にあるセルビア石油産業(Naftna industrija Srbije:NIS)の株式売却交渉について言及した。ヴチッチ大統領は記者団に対し、ロシア側が現在3社のパートナー候補と交渉を行っている事実を把握しているとした上で、早期の合意成立に期待感を示した。

また同日、セルビアの有力週刊誌『NIN』および現地メディアは、この交渉の相手としてアラブ首長国連邦(UAE)の国営石油会社であるADNOC(Abu Dhabi National Oil Company)が合意間近であると報じた。NINの報道によれば、ADNOCはロシアのガスプロム・ネフチ(Gazprom Neft)およびその関連会社が保有するNISの株式計56.15%のすべてを取得する方向で調整が進んでいるとされる。

今回の売却交渉は、ウクライナ情勢に起因する対ロシア制裁、特に米国財務省外国資産管理室(OFAC)による制裁措置が2025年10月8日に発効したことを受けたものである。ヴチッチ大統領は、今回の取引が通常の自発的な売却ではなく、制裁による強制的な状況下で行われているため、セルビア政府として少数株主が通常有する先買権(right of first refusal)を主張できない状況にあると説明した。「ロシア側は『これは自発的な売却ではなく強制売却であるため、誰に売るかは我々に選ばせてほしい』と主張しており、我々は彼らが要求したすべてを受け入れた」と述べている。

ジェドヴィッチ=ハンダノヴィッチ(Dubravka Đedović Handanović)鉱業・エネルギー大臣は19日、ロシア側のオーナーが保有株式56.15%の売却に同意したことを公式に認めた。ジェドヴィッチ=ハンダノヴィッチ大臣は具体的な売却先についてはビジネス上の守秘義務を理由に明言を避けたものの、NIS側が米国の弁護士を通じてOFACに対し、操業ライセンスの延長を申請したことを明らかにした。

セルビアにとって、この取引の成否は国家のエネルギー安全保障にかかわる喫緊の課題である。ジェドヴィッチ=ハンダノヴィッチ大臣によれば、クロアチアを経由するヤナフ・パイプラインからの原油供給が制裁により停止して既に43日が経過しており、国内唯一のパンチェヴォ(Pančevo)製油所の操業維持可能期限は11月25日に迫っている。もしADNOCによる買収が成立し、OFACが制裁解除やライセンス延長を認めれば、セルビアは深刻なエネルギー危機を回避できる可能性が高まる。

交渉の背景には、UAEのムハンマド・ビン・ザーイド・アール・ナヒヤーン(Mohamed bin Zayed Al Nahyan)大統領と、ヴチッチ大統領およびロシアのプーチン大統領との個人的な信頼関係が影響しているとの見方がある。以前はハンガリーの石油ガス会社MOLが株式の一部(11.3%)取得に関心を示していたとされるが、OFACはロシア資本の完全な撤退を求めており、部分的な売却案は認められなかった経緯がある。

なお、今回の取引によりロシア側が得る売却益については、米国が管理する凍結口座(エスクロー)に入金される見通しであり、ロシア政府や制裁対象組織に直接資金が渡ることは米側によって阻止される公算が大きい。

(アイキャッチ画像出典:Shutterstock)

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