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【報道】米国制裁回避に向けたNIS株式の一部売却交渉が加速-ハンガリーMOL社による株式取得案が有力に

11月12日付けセルビア国内誌「NIN」は、セルビアの石油産業(NIS)の株式売却を巡る交渉が佳境を迎えており、ハンガリーの石油ガス大手MOLグループが全株式の11.3%を取得する最有力候補となっていると報じた。同報道によれば、現在、ロシア側とMOL社との間で集中的な協議が行われており、順調に進めば11月25日までに合意に至り、NISに対する制裁問題の解決に向けた道筋が示される見通しであるとされている。

今回の交渉は、米国財務省外国資産管理室(OFAC)による制裁回避を主たる目的としている。報道によれば、ロシアの代表団が11月中旬、具体的には11月15日土曜日にブダペストを訪問し、詳細な計画を詰める予定である。現在、NISの株式11.3%は、ガスプロム・グループ傘下の株式会社「インテリジェンス」が保有しているが、これをMOL社が取得する方向で調整が進んでいる。この取引が成立した場合、セルビア政府(29.87%)、小口株主(13.9%)、そしてMOL社(11.3%)の持分を合計すると55.07%となり、ガスプロム・ネフチの持分(44.93%)を上回ることで、NISは「ロシア資本が支配する企業」という制裁対象の定義から外れることになる。

この動きの背景には、ハンガリーのオルバーン(Viktor Orbán)首相と米国のトランプ(Donald Trump)大統領との政治的な連携が存在する。11月7日に行われた両氏の電話会談において、オルバーン首相はトランプ大統領から「ハンガリーはロシア産原油に対する米国の制裁から1年間免除される」との確約を得たとされている。

オルバーン首相にとって、2026年春に控える重要な議会選挙を前に、エネルギー価格の高騰や供給不足は避けたいリスクであったが、米国からの制裁免除の保証を得たことで、ロシアおよびセルビアを支援する形でのNISへの資本参加に踏み切る政治的余地が生まれた。なお、ハンガリー国内では、欧州連合(EU)に対して異なるアプローチをとるペーテル・マジャル(Péter Magyar)氏率いるTISA党が世論調査で優勢となっており、オルバーン首相にとっては予断を許さない国内情勢が続いている。

ロシア側は、今回の株式譲渡交渉が進展している事実をもって、OFACに対して制裁適用の延期または停止を求めている。セルビアのジェドヴィッチ=ハンダノヴィッチ(Dubravka Đedović Handanović)鉱業・エネルギー相は、ガスプロム側が第三者との交渉を行っていることを根拠に、OFACへライセンス延長を申請したことを認めている。また、11月11日にはセルビアのヴチッチ(Aleksandar Vučić)大統領も、ロシア側が「第三者」と経営権に関する協議を行っていることに言及していたが、具体的な企業名は伏せていた。

なお、ロシア側は当初検討されていたギリシャのヘレニック・エナジー(旧ヘレニック・ペトロレアム)については、同社の大株主である英国との関係を懸念して候補から除外しており、仮にMOL社との交渉が不調に終わった場合の次善の策として、アラブ首長国連邦(UAE)のアブダビの投資家との交渉も並行して行っているとされる。

NISの経営状況は、制裁の影響により周辺国での事業が深刻な打撃を受けている。ルーマニア、ブルガリア、ボスニア・ヘルツェゴヴィナにあるNISの子会社は事業停止を余儀なくされ、銀行口座の凍結や燃料供給の停止に直面している。これによる損失額は、過去のものと今後見込まれるものを合わせると約3億5000万から3億6000万ユーロに達すると試算されている。

今回のMOL社の資本参加が実現すれば、ハンガリーとセルビアのパンチェヴォを結ぶ石油パイプラインの建設も加速すると見られている。外交筋によれば、ロシア側は本音ではNISの株式を手放したくないものの、制裁解除のためにはやむを得ない措置と捉えており、現在のところ完全な撤退までは想定していない模様である。今後の焦点は、11月15日に予定されるブダペストでの会合を経て、米国がこの所有権構造の変更を十分な制裁解除事由として認めるかどうかに移ることになる。

(アイキャッチ画像出典:Shutterstock)

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