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コソヴォ議会、セルビア人副議長を選出し膠着状態を打開か-セルビア系最大政党は「違憲」と猛反発

10月10日、コソヴォ議会(一院制、定数120)は、懸案となっていたセルビア系副議長のポストにラシッチ(Nenad Rašić)議員を選出し、今年2月の総選挙以来続いていた約9ヶ月にわたる議会設立の膠着状態に終止符を打った。しかし、コソヴォ・セルビア系最大政党である「セルビア人リスト(Srpska Lista, SL)」は同氏の選出を憲法違反として激しく非難しており、対立の火種は依然として燻っている。

同日の本会議で、ラシッチ氏は賛成71票、反対9票、棄権24票で副議長に選出された。これを受け、ディマル・バシャ(Dimal Basha)議長は、議会が正式に設立されたと宣言し、新政府樹立への道が開かれたとの認識を示した。コソヴォ憲法裁判所はこれに先立ち、議会に対し12日以内に副議長を選出し、議会設立を完了するよう命じていた。

今回の選出に至るまでには、コソヴォ議会においてセルビア系のために確保されている10議席のうち9議席を保持するSLが推薦した9人の候補者全員が、3度にわたる投票でも過半数の支持を得られず否決されるという経緯があった。候補者を出し尽くしたSLに代わり、バシャ議長がSL会派に属さない唯一のセルビア人議員であるラシッチ氏を副議長候補者として採決を行った。

この決定に対し、シミッチ(Igor Simić)SL副代表は、「正義と法が存在しないことが再び示された。ラシッチ氏は強制的に議員にさせられ、今度は副議長にさせられた」と述べ、議会の決定を「茶番」と断じた。シミッチ氏は、選挙で勝利したセルビア系会派が副議長候補を提案する排他的権利を持つべきであり、今回の選出は憲法、議会規則、そして憲法裁判所の判決に違反すると主張し、法的措置も辞さない構えを見せている。

一方、バシャ議長は、憲法は副議長がセルビア人コミュニティ出身であることのみを定めており、特定の政党に所属している必要はないと反論している。暫定政権の与党「自己決定運動(Vetëvendosje, LVV)」のハジウ(Albulena Haxhiu)議員は、「コソヴォ共和国を認めない代表者は議長団からいなくなった」と述べ、今回の選出を歓迎した。

しかし、この動きは法曹界や専門家の間でも意見が分かれている。元憲法裁判所長官のハサニ(Enver Hasani)氏は、ラシッチ氏はセルビア人ではあるが、議会設立の要件を満たすセルビア人コミュニティの代表者ではなく、その選出プロセスは「始めから終わりまで違憲」であると断じた。コソヴォの有力シンクタンクであるコソヴォ政策研究開発研究所(KIPRED)のペツィ(Lulzim Peci)所長も、セルビア人コミュニティの多数派が持つ代表権が踏みにじられた危険な前例であり、民主主義と憲法秩序に深刻な結果をもたらすと警鐘を鳴らしている。

他方、ジャーナリストのスロイ(Veton Surroi)氏は、この選出によって、いかなる政治グループにも拒否権はなく、SLがコソヴォのセルビア人の代表を独占する権利もないことが確認されたと肯定的に評価している。

議会が正式に設立されたことで、今後、大統領は最大会派であるLVVのクルティ(Albin Kurti)党首に組閣を要請することになる。しかし、LVVとその連立パートナーが有する議席は過半数に満たないため、連立政権の樹立に向けた交渉が次の焦点となる。

また、SLがラシッチ氏の副議長選出プロセスについての違憲審査を憲法裁判所に申し立てた場合、コソヴォの政治は再び法的な不確実性に見舞われる可能性がある。

(アイキャッチ画像出典:Shutterstock)

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