
西バルカン3カ国が単一ユーロ決済圏に同時加盟-EUとの経済統合が加速
10月7日、アルバニア、モンテネグロ、北マケドニアの西バルカン3カ国は、歴史的な一歩として、単一ユーロ決済圏(Single Euro Payments Area, SEPA)の下での決済サービスの提供を同時に開始した。これにより、これら3カ国の個人および企業は、欧州連合(EU)加盟国など40カ国との間で、これまでより大幅に安価で、迅速かつ安全なユーロ建ての送金が可能となり、EU単一市場への経済統合が大きく前進した。
この動きは、EUが推進する「西バルカン成長計画」の柱の一つであり、正式なEU加盟前に単一市場の具体的な恩恵を地域にもたらすことを目的としている。3カ国の金融インフラが欧州基準に整合されることで、貿易や投資の活性化、インフォーマル経済の縮小、そして地域全体の経済的・政治的結束の強化が期待される。
モンテネグロでは、国内全11行が決済サービスを開始した。モンテネグロ中銀プレスリリースによれば、ラドヴィッチ(Irena Radović)中銀総裁は、これを「技術的な変化ではなく、欧州単一市場が国民の日常生活の一部になる一歩」と表現。モンテネグロのスパイッチ(Milojko Spajić)首相も「より安全で、より強く、より欧州的な未来への重要な一歩」と述べ、EU加盟に向けた強い意志を示した。モンテネグロでは、SEPA加盟により年間1,400万ユーロの経済的節約効果が見込まれている。式典では欧州中央銀行(European Central Bank, ECB)のラガルド(Christine Lagarde)総裁もビデオメッセージを寄せ、モンテネグロのEU統合における象徴的な節目を祝福した。
北マケドニアでは、国内大手9行が同日よりサービスを開始し、残る3行も2026年第1四半期末までに完了する予定である。中央銀行の試算によれば、手数料は劇的に削減される。例えば、個人が500ユーロを電子送金する場合、手数料は従来の平均約1,600マケドニア・デナルから約260デナルへと約6分の1に、法人が20,000ユーロを送金する際には従来の約4,740デナルから約570デナルへと約8分の1にまで減少する。
アルバニアでは、セイコ(Gent Sejko)アルバニア中銀総裁が国内全11行の準備が整ったと発表した。アルバニア中銀プレスリリースによれば、アルバニアからSEPA参加国への送金手数料は最大で5分の1に削減され、初年度だけで約2,000万ユーロの節約効果が見込まれている。
他の西バルカン諸国のSEPA加盟の動向
一方で、西バルカン地域の他の国々もSEPA加盟に向けた取り組みを異なるペースで進めている。
セルビアは、2025年5月に欧州決済評議会(European Payments Council, EPC)からSEPAの地理的範囲への参加承認を得ており、大きく前進している。ただし、国内の金融機関が実際にサービスを開始できるのは、準備期間を経て2026年5月以降になる見通しである。
ボスニア・ヘルツェゴヴィナは、SEPA加盟に向けた国内の法整備が最大の課題となっている。中央銀行が関係機関と調整を進めているものの、国内法がSEPAの基準を満たしていないため、まだ正式な加盟申請には至っていない。
コソボは、SEPA加盟に必要な法整備を着実に進めているものの、一部のEU加盟国に国家として承認されていないという根本的な政治課題が加盟への障壁となっている。加えて、関連法の制定を巡る国内政治の対立もプロセスに影響を与えている。
西バルカン3カ国のSEPAへの同時加盟は、単なる金融システムの近代化にとどまらず、EUとの経済的・政治的な距離を縮める重要なマイルストーンとして考えられている。世界銀行(World Bank)や欧州委員会(European Commission)からも、この動きが西バルカン地域の成長を加速させ、金融包摂を促進するとの祝辞が寄せられており、国際社会からの高い期待がうかがえる。この歴史的な一歩は、西バルカン地域の未来が欧州と共にあることを力強く示すものとなった。
(アイキャッチ画像出典:Shutterstock)
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