
セルビア大統領「米国はNISへの制裁適用を8日間だけ再延期する」-根本的な解決策は見出せず
2025年9月28日、セルビアのアレクサンダル・ヴチッチ(Aleksandar Vučić)大統領は、米国がロシア資本のセルビア石油公社(Naftna Industrija Srbije, NIS)に対する制裁の発動を7~8日間延期したことを明らかにした。ヴチッチ大統領によれば、当初10月1日に発動が予定されていたこの制裁措置は、ヴチッチ大統領と米国側との協議を経て、10月8日か9日まで猶予されることとなった。実現されれば、これは米国による7回目の適用延期となる。
ヴチッチ大統領は、首都ベオグラード近郊のオブレノヴァツ(Obrenovac)市を訪問した際に、「米国はセルビアの立場を理解しているという敬意を示したかったのだろう。しかし、我々がこれで何か実質的なものを得ただろうか。7、8日後には同じ問題に直面するが、私にはまだ答えがない」と述べ、今回の延期が根本的な解決策ではないとの認識を示した。また、セルビア側とNISから新たな提案がある可能性に言及しつつも、それが米国の要求を満たすものかは見通せないとした。
米国財務省は、ロシアによるウクライナ侵攻を受け、ロシアのエネルギー部門を標的とする広範な制裁の一環として、ロシアのガスプロム・ネフチ(Gazprom Neft)社が過半数に近い株式を保有するNISを制裁対象に指定した。制裁が全面的に発動されれば、NISはクロアチアのヤナフ(Janaf)パイプラインを通じた原油輸入が事実上不可能となる。セルビアは原油の大部分をこのパイプラインに依存しており、国内唯一の製油所であるパンチェヴォ(Pančevo)製油所の稼働に深刻な影響が及ぶことが懸念される。
オーストリア系金融機関エルステ・グループ(Erste Group)のアナリストは、制裁発動はセルビア経済に深刻な打撃を与えると分析している。エルステが9月29日に公表したレポートによれば、エネルギー不足や燃料価格の高騰は、運輸業や製造業をはじめとする経済活動の減速を招き、政府はNISへの財政支援や関連産業への救済措置を迫られる可能性がある。これにより、NISからの税収減と合わせて国家財政が悪化し、セルビアの信用格付けにも悪影響を及ぼすリスクが指摘されている。
NISのテュルデネフ(Kirill Tyurdenev)CEOは従業員に対し、制裁が発動された場合でも事業を継続し、セルビアのエネルギー安定を維持するための代替シナリオを準備していると説明した。具体的には、一部の銀行との取引が停止した場合に備え、ガソリンスタンドでの代替決済手段を確保しているという。
制裁を回避する狙いからか、NISの株主構成には変化が見られる。当初、ロシアのガスプロム・ネフチが50%、その親会社ガスプロム(Gazprom)が6.15%を保有していたが、株式譲渡が繰り返された。現在、ガスプロム・ネフチの保有比率は44.85%に低下し、セルビア政府が29.87%、ガスプロムが支配するサンクトペテルブルク拠点のインテリジェンス(Intelligence)社が11.3%を保有している。しかし、こうした所有構造の変更が制裁回避に繋がるかは不透明なままである。
既に制裁の影響はNISの業績に現れており、2025年上半期には36億ディナールの純損失を計上し、前年同期の黒字から赤字に転落している。
(アイキャッチ画像出典:Shutterstock)
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