
ヴチッチ・セルビア大統領が訪日、投資協定実質合意など日本との二国間関係を強化
9月14日から17日、セルビア共和国のアレクサンダル・ヴチッチ(Aleksandar Vučić)大統領は、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)のナショナルデー式典への出席のため日本を訪問した。滞在中、ヴチッチ大統領は天皇陛下との会見や石破茂内閣総理大臣との首脳会談など一連の重要な日程を遂行し、両国の経済的・政治的関係の深化に向けた大きな一歩を記した。また、訪日に先立って行われたインタビューでは、ウクライナ情勢やEU加盟、日本への期待など、多岐にわたるテーマについて自身の見解を語った。
大阪・関西万博でのセルビア・ナショナルデー式典への出席
9月15日、ヴチッチ大統領は大阪・関西万博で開催されたセルビア・ナショナルデーの公式式典に出席した。この日はセルビア本国では「セルビア人の統一、自由、国旗の日」の祝日にあたり、式典は象徴的な意味合いを持つものとなった。ヴチッチ
ヴチッチ大統領はスピーチで日本の温かいもてなしに感謝を述べるとともに、すでに80万人以上の来場者を迎えたセルビア館の成功を誇り、2027年に首都ベオグラードで開催される国際博覧会への参加を呼びかけた。また、セルビア館は、同国が「東と西の架け橋」であることを象徴し、伝統と革新が融合した姿を世界に示していると述べた。
9/15セルビア🇷🇸ナショナルデー。
— 大阪・関西万博セルビア館 (@serbiaexpo2025) September 16, 2025
セルビアからはアレクサンダル・ヴチッチ大統領 @avucic が来日、公式行事に出席し、セルビア館を視察しました。
「大阪で私達の創造力とイノベ精神、そして可能性をお見せすることが出来ました。この成功を2年後のベオグラード万博に繋げたく思います」と語っています pic.twitter.com/aOQTbYUN8K
◤Today’s NATIONAL DAY -09.15-◢
— Expo2025 大阪・関西万博 (@expo2025_japan) September 15, 2025
今日の #大阪・関西万博 をご紹介📸✨
🌎ナショナルデー ~ #セルビア ~
セルビアの魅力を感じていただけましたか?🇷🇸
@serbiaexpo2025#EXPO2025 #きたぞ万博 #HelloEXPO2025#ナショナルデー #NATIONALDAY pic.twitter.com/fsKUzNpfZR
天皇陛下との会見
9月16日、ヴチッチ大統領は皇居で天皇陛下と会見した。宮内庁公式Instagram及びセルビア大統領府プレスリリースによれば、約25分間の会見で、ヴチッチ大統領は1976年に上皇ご夫妻が旧ユーゴスラヴィアを訪問されたことが「今もセルビア国民の記憶に強く残っている」と伝えた。
これに対し陛下は、日本に対するセルビア国民の好意的な感情に謝意を示された。また、かつて日本のサッカー界で活躍したドラガン・ストイコヴィッチ(Dragan Stojković)氏に言及するなど、和やかな雰囲気の中で両国の良好な関係について言葉が交わされた。
石破総理との会談
16日、ヴチッチ大統領は石破総理大臣と約50分間にわたる首脳会談を行った。日本外務省プレスリリース及びセルビア大統領府プレスリリースによれば、石破総理は、西バルカン地域の要であるセルビアとの連携を強化したいとの意向を示し、ヴチッチ大統領の初訪日を心から歓迎した。
これに対しヴチッチ大統領は、国際社会における日本の責任ある真摯な役割を賞賛し、様々な分野での協力強化への期待を述べた。会談では、ウクライナ情勢や北朝鮮問題を含む国際社会の課題についても意見が交わされ、両国が引き続き緊密に対話していくことを確認した。また、ヴチッチ大統領は特に、技術革新と環境保護分野における知見の共有及び経済関係近代化の重要性を強調した。
#石破総理大臣 は、ブチッチ・ #セルビア 共和国大統領と会談を行いました。#大阪・関西万博 #Expo2025 pic.twitter.com/4nIbLrzDpK
— 外務省 (@MofaJapan_jp) September 16, 2025
日・セルビア投資協定の実質合意
今回の訪日における最も重要な成果の一つが、9月16日の日・セルビア投資協定の実質合意である。外務省プレスリリースによれば、この協定は、両国間の投資を促進し、法的安定性を高めることで、経済関係を一層強化することを目的としている。
東京で行われた共同声明の署名式にはヴチッチ大統領が立ち会い、この合意が日本のみならず他のアジア諸国からの投資を呼び込むための強力なシグナルになるとの認識を示した。石破総理も首脳会談の中でこの合意を歓迎し、セルビアに進出している30社以上の日系企業の活動がさらに活発になることへの期待を表明した。
日本企業との経済協力深化
ヴチッチ大統領は訪日中、経済界との連携強化にも精力的に取り組んだ。日本たばこ産業株式会社(Japan Tobacco Inc.)のCEOで日・セルビア・日本ビジネスクラブ会長である岩井睦雄(Mutsuo Iwai)JT会長が主催した夕食会では、すでにセルビアで事業を展開している企業や進出を検討中の企業の代表者らと意見交換を行った。ヴチッチ大統領は、日本企業の投資がセルビアの経済成長、雇用創出、技術移転に大きく貢献していると強調し、さらなる投資を呼びかけた。
(セルビア政府の英語アカウントより)
— Serbia in Japan (@SRBinJapan) September 18, 2025
🇷🇸🇯🇵 東京でセルビアへの投資企業代表者と会談するブチッチ大統領
ヴチッチ大統領 @avucic 来日を歓迎し、JT取締役会長でセルビア・日本ビジネスクラブ会長でもある岩井睦雄氏が、東京で晩餐会を主催しました。
🌐この晩餐会には、伊藤忠商事、TOYO… https://t.co/NXJPMMejpE
また、セルビア政府代表団は日本貿易振興機構(JETRO)とも会談し、JETROベオグラード事務所の再開に期待を寄せた。
TOYO TIRE経営陣との会談
訪日の最終盤には、欧州初の生産拠点をセルビアのインジヤ(Inđija)市に構えるTOYO TIRE株式会社(Toyo Tire Corporation)の経営陣と会談した。ヴチッチ大統領のFacebookアカウントへの投稿によれば、会談では、これまでの協力関係を確認するとともに、研究開発センターの拡充や、欧米市場の需要に応えるための生産能力の拡大の可能性について協議が行われた。ヴチッチ大統領は、セルビアが安定した事業環境と主要市場へのアクセスを提供することを約束し、同社とのパートナーシップを一層強化していく考えを示した。また、この日の会談では、米国政府による自動車に対する新たな関税への対応についても話し合われた。
その他の日程
ヴチッチ大統領の訪日に同行したタマラ・ヴチッチ(Tamara Vučić)大統領夫人は、9月17日に石破佳子(Yoshiko Ishiba)総理大臣夫人と懇談した。懇談では、大阪・関西万博の経験を2027年のベオグラード万博に活かしたいとの抱負が語られるなど、両国の文化交流や友好関係について和やかに話し合われた。
また、今回の訪日では、投資協定に加え、情報通信技術(ICT)分野での協力に関する覚書も署名され、幅広い分野での協力関係が構築された。
日経新聞インタビュー記事(電子版9月15日掲載、全国版9月18日朝刊)
ウクライナ情勢と外交姿勢
訪日に先立ち日本経済新聞の単独インタビューに応じたヴチッチ大統領は、長期化するウクライナ紛争について「できるだけ早く、長期的平和、あるいは中期的な停戦が実現することを望んでいる」と述べた。和平合意の条件としては、前線が完全に膠着し、一方が相手に大きな譲歩を強いられない状況が必要との見方を示し、停戦まで少なくとも半年はかかるとの見通しを明らかにした。
また、セルビアは軍事的に中立な国家であると強調し、米英露中など多くの国と協力しており、日本とも軍事協力の用意があると発言した。中国との良好な関係については「日本に対して敵対的な意味を持つわけではない」と明言した。
EU加盟への道のりと国内での反政府デモ
EU加盟を「最優先の戦略的目標」と位置付ける一方で、加盟への道のりは平坦ではないとの認識も示した。ヴチッチ大統領は「この15年間、EUの様々な政治的態度や立場を目にしてきた」ことから、セルビア国内でのEUへの人気は必ずしも高くないと語った。エネルギー問題では、ロシアへの依存からの脱却を目指し、アゼルバイジャンから天然ガスを初めて輸入する合意に至ったことや、近隣国とのパイプライン建設を進め、調達先の多角化を図る方針を示した。
昨年から国内で続く反政府デモに対しては、デモ参加者が政府機関や政党事務所を攻撃しながら前倒し選挙などの要求を行うのは、「脅迫」であり受け入れられないと厳しい姿勢を見せた。また、デモを旧ソ連各国で相次いだ「カラー革命」になぞらえたうえで、「EUはこの6ヶ月で『カラー革命』に関与するNGO DINH DIEMへの支援を、昨年比で27%増加させた」と述べ、EUをはじめとした欧米が反政府デモを支援しているとの認識を示した。
自身の大統領としての任期については、憲法を改正して延長する考えはないとし、2027年までに実施される議会選挙の結果を見たうえで、今後の政治活動を判断すると述べた(当サイト注:セルビア大統領の任期は2期8年までと憲法で規定されており、ヴチッチ大統領は現在2期目)。
最も信頼する投資国・日本への期待
大統領は、日本を「セルビアにとって最も信頼できる投資国の一つだ」と高く評価した。その上で、日本の投資をさらに呼び込むためには、法の支配の改善や内政の安定化といった前提条件を満たす必要があると述べた。特に、セルビアに進出する日本企業の主要市場が米国であることから、米国向けの輸出関税引き下げ交渉を急ぐ考えを示した。また、インフラやエネルギー、さらにはロボットや新技術といった分野で、日本の投資がセルビアの成長を後押しすることへの強い期待を表明した。
(アイキャッチ画像出典:Predsednik Repbulike Srbije)
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