
米上院議員団、セルビアにロシアとのエネルギー関係断絶を要求
10月15日、米上院外交委員会のジム・リッシュ(Jim Risch)委員長やジーン・シャヒーン(Jeanne Shaheen)筆頭委員ら超党派の上院議員グループは共同声明を発表し、ロシア資本の傘下にあるセルビアの石油・ガス会社「セルビア石油産業」(Naftna Industrija Srbije, NIS)に対する制裁発動を歓迎するとともに、セルビアに対しロシア産エネルギーへの依存を終わらせるよう強く求めた。
議員団は声明の中で、ロシアがNISの株式の過半数を保有していることが、セルビアの欧州連合(EU)加盟への道を損なっていると指摘。ロシアがエネルギーを武器として利用し、欧州に経済的圧力をかけ、ウクライナでの戦争資金を調達していると非難した。その上で、「セルビアは今、ロシアの悪影響を受け続けるか、EUと共に欧州市場へ完全にアクセスできる未来を選ぶかの岐路に立たされている」とし、ヴチッチ(Aleksandar Vučić)大統領に対し、セルビア国民の利益を優先するよう促した。
この米国の動きの背景には、数度の延期を経て10月8日に発効したNISに対する制裁がある。この制裁に対し、ロシアはセルビアへの圧力を強める形で応じている。10月11日、ヴチッチ大統領は、ロシアの国営天然ガス企業ガスプロム(Gazprom)が、セルビアが求めていた新たな長期供給契約の締結を拒否し、現行契約を年末まで延長する短期案を提示したことを明らかにした。大統領はこれを「非常に悪いメッセージ」だとし、「もしセルビアがNISの国有化などに動くのであれば、12月31日にガスを止めることができる、と彼らは我々に伝えたいのだ」と述べ、ロシアがガス供給をカードにNISの国有化を牽制しているとの認識を示した。
NISは、ロシアのガスプロム・ネフチ(Gazprom Neft)が44.85%、ガスプロム傘下の企業が11.3%の株式を保有しており、セルビア政府の持ち分は29.87%に留まる。制裁発効を受け、クロアチアのパイプライン運営会社はNISへの原油供給を停止すると発表しており、セルビア唯一の製油所は操業停止の危機に直面している。ヴチッチ大統領によれば、米国側は制裁回避策としてセルビアによるNISの国有化を提案したが、大統領は「他人の財産を奪うことは受け入れられない」としてこれを拒否している。
奇しくも米上院議員団の声明と同日の15日、欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン(Ursula von der Leyen)委員長はベオグラードでヴチッチ大統領と会談し、セルビアがEU加盟に向けて前進するためには、対ロシア制裁を含むEUの外交政策とより緊密に連携する必要があると強調した。これに対し、ヴチッチ大統領は、EU加盟がセルビアの戦略的コミットメントであると改めて表明した。
セルビアは現在も天然ガス需要の大部分をロシアに依存しており、今回のガスプロムとの交渉難航は、同国のエネルギー安全保障を根幹から揺るがしかねない。米国からの制裁、ロシアからの圧力、そしてEUからの要求という板挟みの中で、セルビアは極めて複雑な地政学的判断を迫られている。
(アイキャッチ画像出典:Shutterstock)
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